一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
「君は明るい人だね。」

聖さんが真っすぐに見つめてくる。

「いつもそうやって、笑っているの?」

突然の問いに、私はうーんと唸った。

「私、居酒屋でバイトしているんです。だからかな。笑顔じゃないと接客できないし。」

「……バイトもしてるのか。」
 
意外そうに眉を寄せる。

「はい。」

私はカクテルを一口飲んだ。

桃の香りがふわりと広がり、胸の奥の痛みをごまかそうとする。

「そのお金で何したい? 旅行? 温泉? それともブランドのバッグ?」

からかうような口調に、私は作り笑いを浮かべた。

本当は違う。欲しいのはそんな贅沢じゃない。

ふと、笑顔を保ったまま声が震えた。

「……父の借金を返してるんです。」

言ってしまった。口にした瞬間、グラスを持つ指先が小さく震える。

「借金……?」

聖さんの目が真剣に細められる。

その瞳に射抜かれて、作り笑いが崩れそうになった。

「若いのに……苦労しているんだな。」

低く、重い声。

それは同情ではなく、どこか胸の奥に響くような響きだった。
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