一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない
カクテルのグラスを指でなぞりながら、私はふと口を開いた。

「父が……亡くなったんです。」

聖さんの視線がぴくりと動いた。

「その時に、借金が残っているって知って。ずっと、返済してきました。」

自分でも驚くほど自然に言葉がこぼれた。

誰かに話したことなんてなかったのに。

「昼間は会社員として働いて、夜は居酒屋でバイトして。お金のことを考えない日はありませんでした。」

思い出すと胸の奥がじんと熱くなる。

「贅沢なんてしたことないのに、どうして私が……って。悔しくて、情けなくて。でも、やらなきゃ仕方ないから。」

グラスの中で氷が音を立てる。

私の声も、その音に紛れて消えてしまいそうだった。

聖さんは黙って私を見つめていた。

冷たいはずの瞳に、ほんの一瞬、揺れるような光が差した気がした。

「……大変な思いをしてきたんだね。」

低く落ち着いた声。

そこには同情ではなく、深く胸を打つような真剣さがあった。

私ははっとしてグラスを持ち直した。

いけない、愚痴をこぼすつもりじゃなかったのに。けれど、もう隠せなかった。
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