嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~

第16章 令嬢の裏切り

神宮寺邸。
重厚な扉が閉ざされた応接間で、玲奈は父・英臣の前に座っていた。
「怜司さまを追い詰めるのは簡単でしたわ。奥さまはすでに心を乱されております」

報告する声は冷ややかだが、その胸の奥はざわめいていた。
英臣は満足げに頷く。
「よくやった。鳳条と西園寺の同盟は揺らぐ。あとは怜司を切り捨てればいい」



「……切り捨てる?」
思わず声が震えた。

英臣は薄く笑う。
「怜司が孤立すれば、鳳条は終わる。お前は駒として役目を果たせばいい」

駒。
その言葉に、玲奈の胸が強く痛んだ。

(私は駒なんかじゃない……怜司さまを想う、この気持ちだけは――)



夜、ひとり自室に戻った玲奈は鏡に向かい、己の瞳を見つめた。
赤い唇を噛みしめながら、呟く。

「私は……何をしているの?」

怜司に拒絶されてもなお、彼の声が耳に残っている。
「俺の妻は紗良だけだ」

その言葉が、鋭い刃のように胸を裂きながら、同時に熱を宿らせる。



翌日。
玲奈は怜司のオフィスを訪れた。
書類を差し出すふりをして、そっと囁く。

「怜司さま……どうかお気をつけて。父は、あなたを――」

そこまで言いかけ、唇を噛んだ。
父を裏切ることは許されない。
けれど黙っていれば、怜司は危険に晒される。

怜司が怪訝そうに振り返る。
玲奈は笑顔を装い、言葉を飲み込んだ。

「……いえ、何でもありませんわ」



部屋を後にした玲奈の胸は乱れていた。
(私は父を裏切るの? それとも怜司さまを……)

答えを出せぬまま、彼女はただ夜の街を彷徨った。
父への忠誠と、芽生えてしまった恋情のはざまで――。
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