嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~
第17章 後悔と決意
深夜の寝室。
静まり返った空間に、紗良は一人ベッドに腰を下ろしていた。
机の上には、父の秘書から渡された協定書の写し。
震える指先でそれを撫でるたび、胸の奥が締めつけられる。
「怜司さん……本当に、私を守ろうとしていたの?」
あの夜、玲奈に突きつけられた残酷な言葉。
「彼はもうあなたを信じていない」
その声がまだ耳に残っている。
だが、紙面に残された署名は確かに怜司のもの。
自分を危険に巻き込まぬよう、ひとりで戦っていたのだと気づいた瞬間、紗良の頬を熱い涙が伝った。
(私は……何をしていたの)
怜司の沈黙を裏切りと決めつけ、問い詰めることすらできずに拒絶した。
彼の苦悩に寄り添うどころか、傷つける言葉ばかり投げつけて――。
「ごめんなさい……怜司さん」
震える声が夜に溶ける。
罪悪感と共に、胸に込み上げるのはどうしようもない愛情だった。
その頃、怜司は書斎で机に突っ伏すようにして眠りに落ちていた。
額に浮かぶ疲労の色、固く結ばれた口元。
彼がどれほど自分を守るために無理をしていたのか、紗良は知っているようで知らなかった。
「私……あなたを信じることから逃げていたのね」
ベッドの上でシーツを握りしめ、紗良は静かに瞳を閉じた。
やがて夜明け。
差し込む朝の光に目を開いた紗良の瞳には、昨日までの迷いがなかった。
(今度こそ怜司さんを助ける。私が信じなければ、誰が彼を信じるの?)
涙に濡れた夜を超えて、ひとつの決意が胸に芽生えていた。
夫婦としてではなく、ひとりの人間として――怜司を守りたいと。
「怜司さん……私は、あなたの隣に立ちたい」
小さく呟いたその声は、まだ眠る屋敷の中で誰にも届かない。
けれど確かに、紗良の心は新しい一歩を踏み出していた。