嘘つきなあなたに、もう一度恋をしますか?~冷たい仮面の下の真実~

第18章 愛の再燃



朝。
鳳条家の食卓は静まり返っていた。
怜司は新聞を広げながら、ほとんど口を開かない。
紗良は紅茶のカップを手にしながら、胸の内で小さく息を整えていた。

(もう黙って見ているだけじゃ駄目。私も怜司さんと一緒に戦わなければ)

昨日までなら、冷たい沈黙に耐えきれず席を立っていただろう。
けれど今の紗良の瞳には、確かな決意の光が宿っていた。



その日、紗良は実家の西園寺邸を訪れた。
父の書斎に入ると、重厚なデスクに向かう父・雅臣が顔を上げた。

「珍しいな、紗良。何かあったのか」

「お父さま……お願いがあります。怜司さんと鳳条を助けてください」

その言葉に、父の眉がわずかに動いた。

「助ける? あの男は、我が娘を泣かせているのではなかったか」
「ええ……でも、それでも。怜司さんは、私を守るために戦っているのです」



父は沈黙したまま娘の瞳を見つめる。
震えながらも必死に訴えるその姿は、かつて父の庇護のもとで大人しく生きてきた令嬢ではなかった。

「私は、もう逃げません。怜司さんの傍に立ちたいのです」

力強く告げる声に、雅臣の瞳が細められる。

「……お前がそこまで言うのなら」



邸宅に戻った紗良を待っていたのは、仕事を終えて帰宅した怜司だった。
彼は疲れを隠すようにネクタイを外し、無表情のまま紗良を一瞥する。

「どこに行っていた」
「実家へ。……お父さまに、あなたを助けてほしいとお願いしてきました」

怜司の動きが止まる。
驚愕がその瞳をかすめ、すぐに冷たい仮面が戻った。

「なぜそんなことを」
「だって……あなたを失いたくないから」



一瞬、空気が張り詰めた。
怜司の瞳の奥に、わずかな揺らぎが生まれる。
それを見逃さず、紗良は勇気を振り絞った。

「怜司さん。私は、あなたを信じたい。だから――一緒に戦わせて」



沈黙のあと、怜司は視線をそらし、低く呟いた。
「……無茶をするな」

だがその声は、これまでのような拒絶ではなかった。
かすかに滲む温かさが、紗良の胸に灯をともす。



冷たく凍りついていた心に、確かな熱が戻り始めていた。
夫婦の絆はまだ脆く揺れている。
けれど、その奥底で――愛は再び燃え上がろうとしていた。
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