双子の悪女の身代わり〜実は私が創世の聖女です〜
彼も初めて生まれた感情に戸惑っているのだろう。
 彼は彼女が欲しいれど、彼女の心が自分になくて騙して連れ出すしかないと言っている。

 なんでも願えば叶う立場にいる彼が、カリンの心が欲しいと言っている。
 カリンを捕らえ欲望のまま犯してしまっても、おそらく彼を批判できる力を持っているものはいない。

 それ程に北西の貧しい小国にとって、パレーシア帝国の皇族は絶対だ。
 私は身を持ってそれを知っている。

 私の気持ちなんて誰も気にしてくれなかった。

 私も他人の気持ちを目的より優先する程、誰かを大切に思ったことはない。
 とても尊くて永遠に私が持つことのない感情だと思う。

「殿下が私の妹を寵愛してくれる事を嬉しく思いますわ。私は、殿下が帝国の事を1番考えている方だと存じ上げております。皇帝陛下もカリンの神聖力なら、全快するかもしれませんね。聖女の力の不安定さを知っている方なら私よりカリンを選ぶでしょう。当事者だけしか知らない秘密も殿下ほどの方なら知っているのかしら」

 ルイス皇子に私は帝国が聖女のについての情報を隠し持っていることを知っているというメッセージを伝えた。

 聖女の存在により選ばれし国だと言われていたパレーシア帝国。

 多くの嘘があることを殿下は知っているはずだ。

 そして皇室機密情報である聖女に関する情報を、私が得ている事で私を過大評価すると思った。
(まさか、自分の愚兄が漏らしているなんて思わないでしょうね⋯⋯)

 実際の私は神聖力もほとんどなく、男を見ると吐き気が止まらなくなり、母を助けられず父親の葬儀にも出れなかった無力な女だ。

 いつ死んでも良いと思った瞬間に死ぬわけに行かないと思ったのは、シャリレーン王国を再建する天命があったからだ。

「アリアドネ⋯⋯駆け引きをしないでくれ。君だって理由があってカリンに替え玉をたてたのだろう。君の意思を無視して無理な頼みをしているのだから要求は全てのむつもりだ」
 ルイス皇子はどうしてしまったのだろう。
 彼は恋などせず、帝国の皇帝になる天命を受けて生まれた存在だと思っていた。

「どうして、そこまでカリンの事を思われているのですか?」
「自分でも分からないんだ。でも、湖の辺りで指輪を埋めている彼女を見た時、一瞬で恋に落ちて自分が変えられてしまった。まさに、初代リカルド皇帝と創世の聖女のように僕らは出会ってしまったんだ⋯⋯」

 私は指輪の場所がわかったことに深い安堵のため息をついた。
(湖じゃない! 辺りの土を掘れば見つかる!)

「ルイス皇子殿下、私の要求を申し上げさせて頂きます。全てのんで頂けたら、私も殿下の言う通りに致しますわ」

 私は向こう10年パレーシア帝国がシャリレーン王国を支援することを約束するように伝えた。それは軍事、商業など多岐に渡る分野でだ。

「確かに毒は薬になるな。シャリレーン王国の毒草の活用については約束ができるだろう。しかし、10年間もの間シャリレーン王国を帝国の騎士団が守り、王国の騎士団を育てることまでするのは僕の権限では難しいかもしれない」

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