最強で、最孤
「あの、黒瀬先輩って......」

小柄な一年生、白石が声をひそめて言った。

「ほんとにもう戻ってこないんですか?」

「さあな。......でも、あいつはもう自分の道、決めてんだろ」

加藤は竹刀を床に置き、手ぬぐいで汗を拭いた。

「戻ってきても、誰もついていけないだろうしな。あいつの稽古、エグいから」

「でも、強くなりたいです。私、強くなりたくて剣道部入ったんです。黒瀬先輩と稽古してみたいんです。」

白石の言葉に、空気が一瞬、変わった。

その純粋な願いが、どこか痛かった。

なぜなら、今の剣道部は“勝つこと”より“それっぽくやること”を最優先としていたからだ。

「......黒瀬、呼び出してみるか」

ポツリと加藤が言った。

「無理だよ。あいつは、もう『こっち』を見ていない」

佐伯の言葉は冷たかった。でも、加藤はゆっくりと首を横に振った。

「いや、あいつは見てるよ。良い意味でも、悪い意味でも。ずっと見てる。...多分な」
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