最強で、最孤
決勝戦
会場の空気が変わった。

観客席から集まる視線、審判たちの張り詰めた表情、

静まり返った体育館の中に、瑠那の足音が静かに響く。

目の前に立つのは、去年の王者。

構えに迷いがない。無駄な動きも、感情の揺れも、どこにも見えなかった。

瑠那は、その風格に圧倒されていた。

(......この人に、勝つ
 じゃなきゃ、ここまで来た意味がない)

相手に先に動かれた。

前後左右に、まるで浮いているように動く。

そして、一気に間合いを詰めてくる。

「メンッ!」

(速っ——!?)

瑠那は紙一重で避け、後ろへ下がった。

なんとか避けられたが、避けるだけじゃ駄目だ。

(さすが優勝者。でも、見える。)

その動きを頭の中で再構築し、次を読む。

「コテッ!」

相手はそれを引いてかわし、同時に面を狙ってくる。

得意技の面返し胴をやろうとするが、間合いが詰まってしまう。

審判の旗はどちらにも上がらない。

(今までにない領域の駆け引き。すごい......でも、楽しい)

心が、震えた。
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