最強で、最孤
「私の分も暴れてきて、大将!」

残念なことに、加藤は一回戦負けだったので、瑠那のサポートに徹している。

「うん、絶対、優勝する」

加藤と目を合わせ、ゆっくりとうなずく。



瑠那の初戦は、想像以上に速かった。

相手の構えに迷いがあると見るや、一瞬で間合いを詰めて面を奪う。

二本目も、手元の崩れを見逃さず、小手を決めた。

「勝負あり!」

試合場の周りには、前日の団体戦で対戦した学校の生徒もいた。

「黒瀬、やっぱすごい......」

そんな声が聞こえた。

けれど瑠那は、そんな声に耳を傾けず、自分自身に集中していた。

(誰かの期待じゃない。自分で選んだ道を、ただ進むだけ。)



二回戦、三回戦。

相手の技量は上がっていったが、瑠那の集中力はそれを上回った。

三回戦の相手、シード選手との対戦では、延長が3回も繰り返されるような一進一退の攻防が続いた。

それでも最後は、瑠那が一瞬のスキを付いて面を決めた。

(勝つのは、かんたんじゃない。でも、剣道が好き。楽しい。勝ちたい!)



準々決勝、準決勝と進む中で、何度も身体は悲鳴を上げた。

両手は痺れ、ふくらはぎが張る。

それでも、試合の時は、動きを緩めることがなかった。



そして、ついに——決勝。

相手は、去年の優勝者。

経験も、風格も、すべてが格上に見えた。

「黒瀬選手、準備はできましたか?」

主神の問いに、瑠那は深くうなずいた。

(この一戦のために、どれだけの努力を積んできたのか。努力だけじゃない。孤独も、悔しさも、弱さも——全部)

「始め!!」

決勝戦のコートに、緊張と期待が交差した。

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