最強で、最孤
「なあ、本当にこのままでいいのかよ」

帰り道、加藤がポツリと呟いた。隣を歩くもう1人の副部長、佐伯は、うつむいたまま答えない。

「黒瀬がいなくても団体戦に出られる。......でも、それだけで良いのか?」

佐伯は足を止めた。

「......勝てると思ってるの?」

「いや、思ってない。だけど、黒瀬が必要なんて、思いたくない...。」

風がふいた。道に残った桜の花びらが、舞い上がる。

「瑠那って、さ。怖いんだよな」

佐伯の言葉に、加藤は眉をひそめた。

「怖い?」

「強すぎて。真っ直ぐすぎて。......自分たちが努力してないって、バレてる気がしてさ」

加藤は目を閉じた。思い返すのは、瑠那が最後に学校の剣道場に来た日のこと。

無言で素振りを続け、誰とも話さずに帰っていった背中。

あの時も、彼女の目に「期待」なんてものは、もうなかった。
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