明日からちゃんと嫌いになるから
昔、夢見たことは今
「お義母さんは、お父さんと結婚したこと後悔していない?」
六花が実家に顔を出して継母にそんな質問をしたのは、正樹と会った一週間後のことだった。この日も父は不在で、真由美と二人リビングで女同士のおしゃべりをしていた。
「どうしたの? なにか悩んでいるの?」
「ううん、ただなんとなく……」
正樹はあの日最後まで、できるなら六花と結婚したいと言い頭を下げ続けていた。六花はすぐに返事ができず、今は保留にしてある。
たぶん正樹と結婚した場合、愛情は二の次の夫婦になることが想像ができる。そこで身近なところにもそれらしき夫婦がいることに気づいて、継母の話を聞いてみたくなったのだ。
「そうね、後悔したことはないわ。孝典さんのおかげで毎日穏やかに暮らせているもの。そりゃ最初は、日々の生活だけで精一杯のシングルマザーが、大きな病院の理事長の妻の役目なんて果たせないと尻込みしたわ。でも、想像より嫌な思いはなにもなかったの。孝典さんのことは尊敬しているし、なによりこんなにかわいい娘ができた。いいことばかりよ」
真由美はそう言って六花のことを抱きしめてくれた。祖母との会話を聞いてしまったときもそうだったが、真由美の気持ちは一貫していて、きっと本心でそう思ってくれているのだとわかる。
そして父のことを「尊敬している」というのは、本当にそのままの意味なのだろう。愛情とは違う種の、信頼関係で成り立っている夫婦なのだ。
「ねえ、お義母さん。いっちゃんのお父さんってどんな人だったの?」
真由美は今でも、死に別れた元夫を想っているようなのだが、六花はその人についてほとんどなにも知らない。泉や真由美と出会った時点で、すでに鬼籍に入っていた人なので当然だ。でも、今になって六花は気になりだした。真由美と、今の自分を重ねて見ているからだ。
「……泉がだんだんあの人に似てきているのよね。普段は言葉数少なくて……でも実は熱いものを秘めていて、頑固だし融通はきかない人……それでいて、うんと優しい人だった」
「写真はある? 見せてほしい」
泉が父親似だと聞けば、知りたい気持ちが益々疼く。六花がねだると、真由美は自分の部屋のクローゼットの中から、アルバムを引っ張り出してきてくれた。
「泉の父親の写真は、これ一冊かしら……」
差し出されたのは、古いアルバムだった。いつ、どこで撮られたものかコメントが添えられて、丁寧に写真が貼ってある。
赤ちゃんから、幼稚園時代の泉と両親。生まれてすぐ母を亡くした六花には、こういう日常を写したアルバムがないから、羨ましくなった。
「本当だ。いっちゃんはお父さん似だね」
親子仲よく三人で写っている写真。背の高い男の人は、確かに今の泉によく似ている。
「事故で亡くなったんだよね?」
「そう。泉が小学校一年生の夏休みにね。これまであまり話してこなかったのは孝典さんに遠慮していたわけじゃなく……事故にあったとき、その車に泉も同乗していたからなの」
真由美は、どういう事故だったのか話してくれた。当時から看護師として働いていた真由美を残し、夏休みの土日を利用して、泉と父親で車で小旅行に行った帰りがけに起こったことだったらしい。
山間部を走行中に落石に巻き込まれて……そのとき父親は死亡し、泉も足や腕に大ケガを負ってしまったのだと、真由美は話してくれた。
「私……全然知らなかった」
六花が実家に顔を出して継母にそんな質問をしたのは、正樹と会った一週間後のことだった。この日も父は不在で、真由美と二人リビングで女同士のおしゃべりをしていた。
「どうしたの? なにか悩んでいるの?」
「ううん、ただなんとなく……」
正樹はあの日最後まで、できるなら六花と結婚したいと言い頭を下げ続けていた。六花はすぐに返事ができず、今は保留にしてある。
たぶん正樹と結婚した場合、愛情は二の次の夫婦になることが想像ができる。そこで身近なところにもそれらしき夫婦がいることに気づいて、継母の話を聞いてみたくなったのだ。
「そうね、後悔したことはないわ。孝典さんのおかげで毎日穏やかに暮らせているもの。そりゃ最初は、日々の生活だけで精一杯のシングルマザーが、大きな病院の理事長の妻の役目なんて果たせないと尻込みしたわ。でも、想像より嫌な思いはなにもなかったの。孝典さんのことは尊敬しているし、なによりこんなにかわいい娘ができた。いいことばかりよ」
真由美はそう言って六花のことを抱きしめてくれた。祖母との会話を聞いてしまったときもそうだったが、真由美の気持ちは一貫していて、きっと本心でそう思ってくれているのだとわかる。
そして父のことを「尊敬している」というのは、本当にそのままの意味なのだろう。愛情とは違う種の、信頼関係で成り立っている夫婦なのだ。
「ねえ、お義母さん。いっちゃんのお父さんってどんな人だったの?」
真由美は今でも、死に別れた元夫を想っているようなのだが、六花はその人についてほとんどなにも知らない。泉や真由美と出会った時点で、すでに鬼籍に入っていた人なので当然だ。でも、今になって六花は気になりだした。真由美と、今の自分を重ねて見ているからだ。
「……泉がだんだんあの人に似てきているのよね。普段は言葉数少なくて……でも実は熱いものを秘めていて、頑固だし融通はきかない人……それでいて、うんと優しい人だった」
「写真はある? 見せてほしい」
泉が父親似だと聞けば、知りたい気持ちが益々疼く。六花がねだると、真由美は自分の部屋のクローゼットの中から、アルバムを引っ張り出してきてくれた。
「泉の父親の写真は、これ一冊かしら……」
差し出されたのは、古いアルバムだった。いつ、どこで撮られたものかコメントが添えられて、丁寧に写真が貼ってある。
赤ちゃんから、幼稚園時代の泉と両親。生まれてすぐ母を亡くした六花には、こういう日常を写したアルバムがないから、羨ましくなった。
「本当だ。いっちゃんはお父さん似だね」
親子仲よく三人で写っている写真。背の高い男の人は、確かに今の泉によく似ている。
「事故で亡くなったんだよね?」
「そう。泉が小学校一年生の夏休みにね。これまであまり話してこなかったのは孝典さんに遠慮していたわけじゃなく……事故にあったとき、その車に泉も同乗していたからなの」
真由美は、どういう事故だったのか話してくれた。当時から看護師として働いていた真由美を残し、夏休みの土日を利用して、泉と父親で車で小旅行に行った帰りがけに起こったことだったらしい。
山間部を走行中に落石に巻き込まれて……そのとき父親は死亡し、泉も足や腕に大ケガを負ってしまったのだと、真由美は話してくれた。
「私……全然知らなかった」