明日からちゃんと嫌いになるから
他にも数名のスタッフがいたのだが、シェフ自らオーダーを取りに来てくれた。そのとき相手がからかいたそうにニヤニヤとしていたものだから、泉は「妹だよ」と六花との関係を伝えていた。
「そうか、クリスマスに妹とデートか……」
シェフの表情はみるみるうちに同情的なものとなり、クリスマスイブの夜に妹と食事をするかわいそうな友人のために、たくさんのサービスをしてくれた。
泉がその話題に触れてきたのは、メインの料理を食べ終わったあたりだった。
「そう言えば、会わなくてよかったのか? ……婚約者と」
「勤務医なんだから、休みなんて調整できないよ」
「そうだな」
たぶん、今日のことをわざわざ真由美と泉が話すことはないだろうから、この嘘は露見しない。その場限りの取り繕った言い訳だったが、納得してくれたのか、泉はすぐに話を変えてきた。
「来月は誕生日か。クリスマスと合わせてなにかほしいものあるか? 最後になるだろうから、なんでもいい。なにがほしい? なんでも言ってくれ」
泉が六花の誕生日プレゼントのことを考えてくれるのは、三年ぶりだ。結婚式にも参列してくれる泉は、この短い期間だけもう一度兄役をこなそうとしてくれているのだ。最後と明言してきたのが、悲しくもあるけれど。
「……なんでもなんて、ずいぶん太っ腹だね。……考えておく」
八歳になる目前のクリスマスに願ったのは、新しいお母さんとお兄ちゃん……。あれから、もう十七年が経過している。
§
お腹いっぱいになった二人は、オーナーシェフにお礼と挨拶をしてから、八時になる前に外へ出た。
六花のマンションは駅から徒歩でも行ける範囲にあるが、食事した店とは駅を挟んで反対側だ。泉は送ってくれるつもりなのか、黙って歩き出したので六花はあとに続く。
「混んでるな……」
駅周辺は食事前よりさらに混み出している。自分たちのように食事を終えた人、これから食事に向かう人、……閉店時刻間際だろうジュエリーショップには、まだたくさんのカップル客がいる。
人混みで離れ離れにならないよう、泉のダウンジャケットの先を摘まみたくなったが、そんな権利はないので手をひっこめる。
すれ違い様に人とぶつかってしまったのは、街路樹がイルミネーションで彩られた道でのことだった。つい、灯された電飾ばかり見ていたのがいけなかった。
「あ……ごめんなさい」
「こちらこそ」
女性が持っていた、いかにもプレゼントらしい高級ブランドの大きな紙袋が、六花の腕に当たったのだ。相手は立ち止まり、六花に謝罪をしてくれた。小柄で、物腰の柔らかそうな女性だった。
コートを着ている六花は痛みも感じなかったので、お互い礼儀的なやりとりで終わる……そのはずだった。
「……あっ」
でもその女性と腕を組んで歩いていた人を見て、六花は思わず声をあげてしまった。それは不意をつかれたときの、しかたのない反応だった。
すぐにまずいと気づき、六花は相手から視線を逸らし、黙って自分の進行方向だけを見つめた。泉の腕をひっぱって、もう行こうと先を促す。
泉は怪訝そうにしつつも一度は、足を進めてくれた。でも……。
「……正樹さん? お知り合い?」
女性の声をギリギリ拾ってしまい、泉がぴくりと反応する。六花は聞こえなかったふりをして先に行こうとしたが、彼は動かなかった。
「今の……誰?」
「えっと、顔見知り程度の……、あまり関係のない人。気にしないで」
「そうか、クリスマスに妹とデートか……」
シェフの表情はみるみるうちに同情的なものとなり、クリスマスイブの夜に妹と食事をするかわいそうな友人のために、たくさんのサービスをしてくれた。
泉がその話題に触れてきたのは、メインの料理を食べ終わったあたりだった。
「そう言えば、会わなくてよかったのか? ……婚約者と」
「勤務医なんだから、休みなんて調整できないよ」
「そうだな」
たぶん、今日のことをわざわざ真由美と泉が話すことはないだろうから、この嘘は露見しない。その場限りの取り繕った言い訳だったが、納得してくれたのか、泉はすぐに話を変えてきた。
「来月は誕生日か。クリスマスと合わせてなにかほしいものあるか? 最後になるだろうから、なんでもいい。なにがほしい? なんでも言ってくれ」
泉が六花の誕生日プレゼントのことを考えてくれるのは、三年ぶりだ。結婚式にも参列してくれる泉は、この短い期間だけもう一度兄役をこなそうとしてくれているのだ。最後と明言してきたのが、悲しくもあるけれど。
「……なんでもなんて、ずいぶん太っ腹だね。……考えておく」
八歳になる目前のクリスマスに願ったのは、新しいお母さんとお兄ちゃん……。あれから、もう十七年が経過している。
§
お腹いっぱいになった二人は、オーナーシェフにお礼と挨拶をしてから、八時になる前に外へ出た。
六花のマンションは駅から徒歩でも行ける範囲にあるが、食事した店とは駅を挟んで反対側だ。泉は送ってくれるつもりなのか、黙って歩き出したので六花はあとに続く。
「混んでるな……」
駅周辺は食事前よりさらに混み出している。自分たちのように食事を終えた人、これから食事に向かう人、……閉店時刻間際だろうジュエリーショップには、まだたくさんのカップル客がいる。
人混みで離れ離れにならないよう、泉のダウンジャケットの先を摘まみたくなったが、そんな権利はないので手をひっこめる。
すれ違い様に人とぶつかってしまったのは、街路樹がイルミネーションで彩られた道でのことだった。つい、灯された電飾ばかり見ていたのがいけなかった。
「あ……ごめんなさい」
「こちらこそ」
女性が持っていた、いかにもプレゼントらしい高級ブランドの大きな紙袋が、六花の腕に当たったのだ。相手は立ち止まり、六花に謝罪をしてくれた。小柄で、物腰の柔らかそうな女性だった。
コートを着ている六花は痛みも感じなかったので、お互い礼儀的なやりとりで終わる……そのはずだった。
「……あっ」
でもその女性と腕を組んで歩いていた人を見て、六花は思わず声をあげてしまった。それは不意をつかれたときの、しかたのない反応だった。
すぐにまずいと気づき、六花は相手から視線を逸らし、黙って自分の進行方向だけを見つめた。泉の腕をひっぱって、もう行こうと先を促す。
泉は怪訝そうにしつつも一度は、足を進めてくれた。でも……。
「……正樹さん? お知り合い?」
女性の声をギリギリ拾ってしまい、泉がぴくりと反応する。六花は聞こえなかったふりをして先に行こうとしたが、彼は動かなかった。
「今の……誰?」
「えっと、顔見知り程度の……、あまり関係のない人。気にしないで」