SWAN航空幸せ行きスピンオフ!〜雷のち晴れ〜
駐車場に車を入れると、上長からの館内放送が入る。
「お疲れ様でした。雨に濡れた人はシャワーを浴びたら事務所に戻ってきてください」
こういう時シャワー完備の職場はいいなと思う。
普段から屋外作業のグラハンは夏は汗でドロドロ。それでなくとも、油や洗浄液などにまみれることが多い。車通勤のスタッフもいるが電車通勤だと、ひと風呂浴びないと辛いものがある。
希空もほうっと息をつきながらシャワーを浴びた。
事務所へ戻ると皆さっぱりした様子。けれど不安げな表情を浮かべたまま窓の外を見ている。
雷は激しく、二時間経ってもやむ気配がない。
「各社、ダイバード指示が出た」
強張った表情のリーダーが伝えた。
誰かの喉がひぐ、と変な音を立てる。
ダイバード。
当初の目的地以外の空港等に着陸することだ。 代替着陸、目的地外着陸とも呼ばれる。
「理人さん」
我しらず呟き、希空の顔が真っ青になった。
皆が一斉に希空を見る。
「もしかしたら旦那さん、飛んでるの?」
遠慮がちなリーダーの声に希空は頷くのが精一杯。
便名を告げると、誰かがパソコンの前に座った。
「うわ……」
その声にメンバーが集まる。
地図上に、一機ごとに飛行経路や到達地点を示すアプリだった。東京国際空港上だけ飛行機が数百くらい重なり合っている。
ダイバード指示を受け取った飛行機から、少しずつ東京国際空港の上空雨を離れていくにしてもまだ、空港上に旋回している飛行機も多かった。受け入れ先が確定しないと闇雲に飛べないからだ。おそらく、全国の飛行場が受け入れ態勢をとっている。けれど、一日の発着数が十機もない空港はそもそも受け入れることは出来ない。必然的にある程度の規模の空港しか向かえないのである。
「これ、弁償どうなるんだろう」
別の誰かがポツリと呟く。皆、一斉に体をこわばらせた。
一時間程度の遅れでは飛行機は払い戻しをしない。
けれど当日中に到着できないとなると、いくらかの補償が出る可能性があった。
「一人一万としても二百……いや三百席全部満席だったら」
今日の客室内清掃を担当していたメンバーが、恐ろしそうに独りごちていたのを聞きつけた者達は、咄嗟に計算してしまった。
「一機につき三百万。それが数十機……」
大赤字だ。
「大丈夫なの、SWAN?」
大手航空会社だから、すぐに屋台骨が揺らぐことはないだろうが。皆の目がリーダーに集まる。
……希空を質問攻めにしないのは皆の優しさだ。
メンバーは希空の夫がSWANのオーナー一家の一員であることを知っている。
しかし夫はパイロットだから、補償などのような微妙な問題を希空に聞いても仕方ないのだ。そう思いつつ、質問されなかったことに、希空はホッとする。
理人の妻とはいえ、自分もオーナー一族の一員であることに、いつまでも慣れない。
「そうだなあ。多分、飛ぶ時点である程度予想できてるだろうから『条件付き運行』にしてる。するとUターンする可能性やダイバード承諾済みってことになるから、出しても移動手段の交通費とか、宿泊代ってとこじゃないかな」
リーダーの言葉に皆、ほうっとためいきをつく。
自分達の会社は、SWANあっての協力会社だ。母体の経営状況によっては経費削減や雇い止めなどに直結するので、神経質にならざるを得ない。皆がやいのやいのしている中、希空だけがディスプレイを見つめていた。
「お疲れ様でした。雨に濡れた人はシャワーを浴びたら事務所に戻ってきてください」
こういう時シャワー完備の職場はいいなと思う。
普段から屋外作業のグラハンは夏は汗でドロドロ。それでなくとも、油や洗浄液などにまみれることが多い。車通勤のスタッフもいるが電車通勤だと、ひと風呂浴びないと辛いものがある。
希空もほうっと息をつきながらシャワーを浴びた。
事務所へ戻ると皆さっぱりした様子。けれど不安げな表情を浮かべたまま窓の外を見ている。
雷は激しく、二時間経ってもやむ気配がない。
「各社、ダイバード指示が出た」
強張った表情のリーダーが伝えた。
誰かの喉がひぐ、と変な音を立てる。
ダイバード。
当初の目的地以外の空港等に着陸することだ。 代替着陸、目的地外着陸とも呼ばれる。
「理人さん」
我しらず呟き、希空の顔が真っ青になった。
皆が一斉に希空を見る。
「もしかしたら旦那さん、飛んでるの?」
遠慮がちなリーダーの声に希空は頷くのが精一杯。
便名を告げると、誰かがパソコンの前に座った。
「うわ……」
その声にメンバーが集まる。
地図上に、一機ごとに飛行経路や到達地点を示すアプリだった。東京国際空港上だけ飛行機が数百くらい重なり合っている。
ダイバード指示を受け取った飛行機から、少しずつ東京国際空港の上空雨を離れていくにしてもまだ、空港上に旋回している飛行機も多かった。受け入れ先が確定しないと闇雲に飛べないからだ。おそらく、全国の飛行場が受け入れ態勢をとっている。けれど、一日の発着数が十機もない空港はそもそも受け入れることは出来ない。必然的にある程度の規模の空港しか向かえないのである。
「これ、弁償どうなるんだろう」
別の誰かがポツリと呟く。皆、一斉に体をこわばらせた。
一時間程度の遅れでは飛行機は払い戻しをしない。
けれど当日中に到着できないとなると、いくらかの補償が出る可能性があった。
「一人一万としても二百……いや三百席全部満席だったら」
今日の客室内清掃を担当していたメンバーが、恐ろしそうに独りごちていたのを聞きつけた者達は、咄嗟に計算してしまった。
「一機につき三百万。それが数十機……」
大赤字だ。
「大丈夫なの、SWAN?」
大手航空会社だから、すぐに屋台骨が揺らぐことはないだろうが。皆の目がリーダーに集まる。
……希空を質問攻めにしないのは皆の優しさだ。
メンバーは希空の夫がSWANのオーナー一家の一員であることを知っている。
しかし夫はパイロットだから、補償などのような微妙な問題を希空に聞いても仕方ないのだ。そう思いつつ、質問されなかったことに、希空はホッとする。
理人の妻とはいえ、自分もオーナー一族の一員であることに、いつまでも慣れない。
「そうだなあ。多分、飛ぶ時点である程度予想できてるだろうから『条件付き運行』にしてる。するとUターンする可能性やダイバード承諾済みってことになるから、出しても移動手段の交通費とか、宿泊代ってとこじゃないかな」
リーダーの言葉に皆、ほうっとためいきをつく。
自分達の会社は、SWANあっての協力会社だ。母体の経営状況によっては経費削減や雇い止めなどに直結するので、神経質にならざるを得ない。皆がやいのやいのしている中、希空だけがディスプレイを見つめていた。