SWAN航空幸せ行きスピンオフ!〜雷のち晴れ〜
「そういえば、雲晴さん」
リーダーに呼ばれた。
……希空は入籍して、一柳姓になっている。
けれど「『雲晴』でいて欲しい」というパイロットからの熱烈な要望を受けて旧姓を名乗っていた。
理人の親友のミカなどは、『お前が希空のムコヨーシになればよかったのに』と冗談を言うほどだ。
『【雲が晴れて空を望む】という名前は、意外と験を担ぐパイロットに大評判の名前なんだからさ』
「はい」
希空がなんだろうと振り返る。
「確か、ハネムーンて明日からじゃなかったっけ」
リーダーの遠慮がちな声に皆、ギョッとした。
「え、こんな所にいないで家に帰んないと!」
「こんな所て」
「どうやってだよ。電車は止まってるし、車もやばいだろ」
「あ」
「しかも、ハネムーン相手の旦那さん、まだ空の上だぜ」
メンバーは気の毒そうな顔で希空を見る。
しかし、希空があまりに真剣な表情でディスプレイを見ているままなので、そっと見守ることにしてくれたらしい。
「あ」
リーダーの声に、メンバーは救われたように彼へ注意を向けた。
「中部空港と関空がダイバードを受け入れ始めてる!」
別の画面で経緯を見守っていたリーダーが呟くと、皆一斉にそちらへ向かう。
「え、どれどれ」
「じゃあ、そろそろ終息に向かうかなあ」
「だといいよな」
皆の声が明るくなった。
「ほんとだ……」
希空の見つめているディスプレイでも、東京国際空港上に溜まっていた飛行機の渋滞が、解消され始めている。
それぞれ受け入れ先の空港に向かって飛び始めたのだ。
進路が四散していく。
「理人さんは……」
彼の乗っていた便を一生懸命探す。すると、Uターンを始めていた。希空はぎゅ、と胸の前で自分の手を握り込む。
『欠航・もしくはダイバードになった場合。希空、先にホテルに泊まっていてくれるか』
ハネムーン用のトランクを車に積み込んだ車が空港に到着したとき、理人はそんなことを言った。
パイロットはあらゆる事態を想定して動く。
二人はハネムーンにいくため、近くのホテルで前泊することにしていた。
本当は、二人で待ち合わせしてからチェックインするはずだった。正直いえば希空は彼と合流するまで、
「そんな事態になったのであればグラハンスタッフとして働いていたいです」
希空の正直な気持ちだった。
けれど、それこそ不測の事態が重なったら、すれ違いになりかねない。
『俺には空の女神がついているから大丈夫。数時間の遅れくらいだろうから、希空はゆっくりエステでも受けていて欲しい』
そんなこと起こりませんように、と思いながら希空は了承したのだが。
飛び立った航路へ向かい始めた理人の飛行機に、希空は安全のためだとわかっていたが、苦しくて息を詰めた。
「理人さん……」
しかし、希空の目の前で理人の乗っている飛行機が関空へのダイバードを取りやめた。
「え?」
リーダーが叫んでいる。
「何機か、東京国際空港に戻ってくるっ」
SWANが一機、他社が三機。
そのとき、指令が入った。
他社のグラハンスタッフが準備に時間がかかりそうなので、理人の飛行機が一番先に降りてくるという。
だれていたメンバーの背中にシャキン! と力が入る。
皆、作業着に着替えヘルメットを装着し始めた。
「雲晴さん」
リーダーに呼ばれて駐車場へ向かおうとしていた希空は振り返る。
「はい?」
「雲晴さん、マーシャラーやってみる?」
マーシャラーは 航空機誘導員とも呼ばれ、空港で着陸した飛行機を所定の場所まで安全に誘導する係だ。
パドルと呼ばれる小さなオールのような物。あるいはライト、手信号を用いてパイロットに合図を送る。
「搭乗ゲートじゃないし、夜だからマーシャリングカーに乗ってライトになるけど」
トーイングカーでのプッシュバックが多い希空であるが、いじめに遭った際、ボーディングブリッジの操作などのほかにもマーシャラーを行うことがあった。
「疲れている旦那さん、出迎えてあげなよ」
ウインクのつもりで両目をつぶってしまったリーダーの言葉に、メンバーが湧いた。
「リーダー、たまにはいいこと言うじゃないですか!」
「いっつもですー」
明るくなった雰囲気の中、希空は少し考える。
夫の役に立ちたい、一目でも彼を見れたら。そんな思いは当然あるが、なによりも重要なこと。自分の技術は安全に飛行機を導けるだろうか。
「やれます」
目に光を宿し、彼女はしっかりと返事をした。
リーダーに呼ばれた。
……希空は入籍して、一柳姓になっている。
けれど「『雲晴』でいて欲しい」というパイロットからの熱烈な要望を受けて旧姓を名乗っていた。
理人の親友のミカなどは、『お前が希空のムコヨーシになればよかったのに』と冗談を言うほどだ。
『【雲が晴れて空を望む】という名前は、意外と験を担ぐパイロットに大評判の名前なんだからさ』
「はい」
希空がなんだろうと振り返る。
「確か、ハネムーンて明日からじゃなかったっけ」
リーダーの遠慮がちな声に皆、ギョッとした。
「え、こんな所にいないで家に帰んないと!」
「こんな所て」
「どうやってだよ。電車は止まってるし、車もやばいだろ」
「あ」
「しかも、ハネムーン相手の旦那さん、まだ空の上だぜ」
メンバーは気の毒そうな顔で希空を見る。
しかし、希空があまりに真剣な表情でディスプレイを見ているままなので、そっと見守ることにしてくれたらしい。
「あ」
リーダーの声に、メンバーは救われたように彼へ注意を向けた。
「中部空港と関空がダイバードを受け入れ始めてる!」
別の画面で経緯を見守っていたリーダーが呟くと、皆一斉にそちらへ向かう。
「え、どれどれ」
「じゃあ、そろそろ終息に向かうかなあ」
「だといいよな」
皆の声が明るくなった。
「ほんとだ……」
希空の見つめているディスプレイでも、東京国際空港上に溜まっていた飛行機の渋滞が、解消され始めている。
それぞれ受け入れ先の空港に向かって飛び始めたのだ。
進路が四散していく。
「理人さんは……」
彼の乗っていた便を一生懸命探す。すると、Uターンを始めていた。希空はぎゅ、と胸の前で自分の手を握り込む。
『欠航・もしくはダイバードになった場合。希空、先にホテルに泊まっていてくれるか』
ハネムーン用のトランクを車に積み込んだ車が空港に到着したとき、理人はそんなことを言った。
パイロットはあらゆる事態を想定して動く。
二人はハネムーンにいくため、近くのホテルで前泊することにしていた。
本当は、二人で待ち合わせしてからチェックインするはずだった。正直いえば希空は彼と合流するまで、
「そんな事態になったのであればグラハンスタッフとして働いていたいです」
希空の正直な気持ちだった。
けれど、それこそ不測の事態が重なったら、すれ違いになりかねない。
『俺には空の女神がついているから大丈夫。数時間の遅れくらいだろうから、希空はゆっくりエステでも受けていて欲しい』
そんなこと起こりませんように、と思いながら希空は了承したのだが。
飛び立った航路へ向かい始めた理人の飛行機に、希空は安全のためだとわかっていたが、苦しくて息を詰めた。
「理人さん……」
しかし、希空の目の前で理人の乗っている飛行機が関空へのダイバードを取りやめた。
「え?」
リーダーが叫んでいる。
「何機か、東京国際空港に戻ってくるっ」
SWANが一機、他社が三機。
そのとき、指令が入った。
他社のグラハンスタッフが準備に時間がかかりそうなので、理人の飛行機が一番先に降りてくるという。
だれていたメンバーの背中にシャキン! と力が入る。
皆、作業着に着替えヘルメットを装着し始めた。
「雲晴さん」
リーダーに呼ばれて駐車場へ向かおうとしていた希空は振り返る。
「はい?」
「雲晴さん、マーシャラーやってみる?」
マーシャラーは 航空機誘導員とも呼ばれ、空港で着陸した飛行機を所定の場所まで安全に誘導する係だ。
パドルと呼ばれる小さなオールのような物。あるいはライト、手信号を用いてパイロットに合図を送る。
「搭乗ゲートじゃないし、夜だからマーシャリングカーに乗ってライトになるけど」
トーイングカーでのプッシュバックが多い希空であるが、いじめに遭った際、ボーディングブリッジの操作などのほかにもマーシャラーを行うことがあった。
「疲れている旦那さん、出迎えてあげなよ」
ウインクのつもりで両目をつぶってしまったリーダーの言葉に、メンバーが湧いた。
「リーダー、たまにはいいこと言うじゃないですか!」
「いっつもですー」
明るくなった雰囲気の中、希空は少し考える。
夫の役に立ちたい、一目でも彼を見れたら。そんな思いは当然あるが、なによりも重要なこと。自分の技術は安全に飛行機を導けるだろうか。
「やれます」
目に光を宿し、彼女はしっかりと返事をした。