SWAN航空幸せ行きスピンオフ!〜雷のち晴れ〜

終業

 東京国際空港は人で溢れかえっていた。
 電車のない時間に到着したのだから当然だ。

 希空の所属している会社は空港会社からの委託を受けてLCCの地上支援も行っていた。そのため事務所には元々宿直室がある。夜勤の担当者は来れなかったから、中番が朝まで仕事をすることになった。代わりに宿直室を使わせてもらえる。

 希空は自分だけホテルを予約していることが申し訳なかった。自分も宿直室を使わせてもらう、と提案してみた。
 ところが。

「とんでもない!」

 メンバーに猛反対されてしまう。

「俺が一柳さんに怒られるってば!」

 リーダーが真っ青になる。希空は笑って取り合わない。

 「そんなことないです」

 結婚式でもリーダーは高砂席に挨拶しに来てくれたから、そこそこ親しいのだと思っていたが。まさか二人が自分のこと週一以上やりとりしている仲だとは知らない。

「とにかく! 雲晴さんはハネムーン用に前泊で予約してたんだから、いいんだよ!」

  大合唱された。

「え、でも朝まで」

 働くつもりだった希空に、リーダーは重々しく告げる。

「いいから。雲晴さんは帰りな。一柳さんと今日の疲れ、癒しちゃって!」

 なかば追い出されるように事務所を出た。

 希空はもうしわけないな、と思いながらも自分がホテルをキャンセルしても焼け石に水だともわかっていた。
 自分達の宿をキャンセルしても理人は納得してくれるだろう。

 しかし、燃料が少なくなっていくなかで。
 雷雲の中でパニックしているであろう搭乗客とスタッフを守りながら飛行し続けていた、夫を労りたい気持ちのほうが強かった。

 雑魚寝している客達に心の中でお詫びをして、希空は予約していたホテルへと急いだ。気がついて、スマホの電源をオンにする。すぐ、手のひらに振動がきた。

 「希空、マーシャラーしてくれてたか?」
 「気づいてくれてたんだ?」

  体の中がほっこりと温かくなる。
 
「ああ。助かったよ。ありがとう、早くおいで。待っている」

 夫の言葉に、今度は胸が甘く高鳴る。
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