許嫁はチャラい毒舌論破系御曹司!! 想い人の親友と結婚するフリをすることにしました
初恋の人
こっそりフリーメールから匿名で相談フォームに入れてみた。
『朝霧透さんの初恋の思い出を教えてください』
相談以外の雑談もお金を払って朝霧に送る者は多く、本気の相談ばかりではないというのが実情だった。
だから、こんな質問もよくあるので、あまり目立たない。
夏祭りの頃から気になっていたことだ。
忘れられない初恋の人のこと。
「はーい。いつも元気な朝霧透でーす。朝霧流、はじめまーす。今日は噂の助手が声だけ出演しまーす」
にこやかな配信の撮影が始まる。
これをうまく編集して面白い感じに動画として配信する。
撮影するのはもっぱら私の役目となった。
今日は相槌を打つ係として声だけ出演してくれって言われてしまう。
「俺の初恋聞いちゃう? 俺の初恋は中学時代に出会った人なんだよね」
「マジですかぁー」
いつもよりテンション高めの声を出す。
これもちゃんとシナリオがあり、事前に入念な打ち合わせがあった。
顔は出していないけど、助手初めて声だけ出演ということで、少し新鮮味を出したいらしい。
「実は俺には許嫁がいるって中学時代に知っちゃってさ、こっそりどんな人か見に行ったんだよね」
「うそ? 許嫁なんていたんですか?」
ここは本気で驚いてしまった。
初耳だ。というか私以外にも許嫁がいたなんて。
「一目惚れだったよ。その子が好きなキャラクターが偶然にも俺も集めていたキャラだったんだよね。そのキャラクターの限定グッズを持って話しかけようとしたんだけど、全然話せなくって。勇気を持ってキャラクターの話をしたんだけど、少し話してすぐに終了しちゃってさ。全然面白くもなんともない話なんだけど、この話には続きがあるんだよね」
「そんな過去があったんですかぁ」
「偶然にもその子が同じ大学にいたんだけど、もう好きな人がいてさ。じゃあ、いっそのことその恋応援しちゃおうって思ってさ。今、助手してもらってるんだよね。だから、結婚するつもりもないし、初恋はいい思い出にしようって思ってさ」
それって、私のこと? 勘違いだったらどうしよう。
でも、助手っていえば私しかいない。
それに限定グッズっていえばこのウサギのキャラクター、モフウサのことだろうか。
昔から私はモフウサというゆるキャラが好きで、中学の頃はグッズを結構持っていた。
今でも、持ってるけど、そんなにメジャーじゃないキャラだから、大学で出会った朝霧が持っていた時には驚いた。
かわいいキャラクターが好きなタイプには見えなかったし。
「覚えてる? 助手さん」
朝霧は真剣な目をしていた。
「そういえば、中学生の時に塾の帰りに男子に話しかけられた記憶があるけど、親が迎えに来ていて、それ以来会うこともなくて」
「実は、何回か話しかけようとしたんだけど、タイミングが合わなくて、難しかったっていうのが本当のところなんだよね」
「そうだったんですか?」
「でも、好きな人がいるなら、応援したいと思ってさ。結婚したフリでもなんでもいいから友達として一緒にいたくて、バイトをお願いしてたりするんだけどね」
「ドッキリじゃないですよね?」
朝霧ならありうる。
「実はライブ配信してるけど、助手の顔は出してないから。公開告白は成功するかみたいな企画なんだよね。公開処刑でフラれるのもありかなって」
「どうして、あなたの人生を配信しちゃうんですか。生き恥さらす気ですか?」
「こうでもしないと勇気が出なくて。がんばれってメッセージがいっぱい入ってくると勇気が出るからさ」
いつの間にかライブ配信されていた。
朝霧流の今日のテーマ【初恋は実るのか? 朝霧透の公開告白!! ライブ生配信】。
「どうしようもない人ですね。この質問を匿名で送ったのは私です。だって、おもちゃの指輪が捨てられないことに気づいたんです。お金じゃ買えない指輪だなって」
驚いた顔をする朝霧。
指輪を動画に写す。
『おもちゃの指輪って何?』
『助手さんと両思いか?』
『許嫁なんてあるんだ』
『がんばれ透!!』
などとコメントがたくさん瞬時に流れる。
「あなたはもっとチャラくていい加減なのかと思ったけど、誠実で真面目で一生懸命に仕事をしていて。一緒にいると和むんです」
「あれ? その流れって初恋は実るってことでいいのかな?」
朝霧は余裕の笑みを浮かべる。
「全然好きじゃないですけど。いないと困る存在だなって思うんです」
モフウサを動画に写す。
「マジで俺と結婚しちゃう?」
「これがプロポーズですか?」
「だって、朝霧流だから、こういったノリになっちゃうんだよね」
「ちゃんとしたプロポーズしてください」
もうシナリオなんてない状態で話している。
生配信は何が起こるかわからない。
「プロポーズは配信が終わったらするんで、仮でお返事いただけますか?」
チャラくない朝霧透がそこにはいた。
「お返事は配信の後に」
動画配信の最後に朝霧は私の左手の薬指に指輪をはめた。
おもちゃの夏祭りでの想い出の指輪。
『おめでとうでいいのかな?』
『マジで朝霧透に恋してたのに』
『本気で結婚するのか?』
コメント欄は過去最高の流れとなっていた。
「じゃあ、今日の朝霧流【初恋は実るのか? 朝霧透の公開告白!! ライブ生配信】これにて終了」
そのまま配信は切れる。
「もう、配信も切ったんで、告るよ。フリではなく本当に結婚してくれる?」
「突然のことで、戸惑ってます。でも、まずはお付き合いからならば前向きに検討したいと思っています」
心臓はバクバクで緊張の連続だ。
「マジか―最高にうれしい!!」
朝霧が抱きついてきた。
そして、どさくさに紛れて、キスまでしようとしたので、つい手のひらで彼の唇を覆ってしまった。
こんなに急にそんな展開に持っていかれてもこちらの気持ちの準備というものがある。
自分勝手で、子供みたいにはしゃぐ姿は愛おしさすら感じた。
「桜葉くんへの思いもまだ、片づけていないのに!!」
「いや、俺は桜葉に勝つ自信あるから、愛華ちゃん、愛してる」
そう言うと、彼はそのまま私をぎゅっと抱き寄せた。
人生初の男性に抱きしめられるという展開についていけない私は、契約結婚するフリではなく、本当に結婚する予定となった。
恋愛や結婚はタイミングと縁と運が重なった時に進む。
朝霧流で良く彼が言っていることだが、それは本当だと肌で感じた瞬間だった。
彼の肌のぬくもりは私には心地いい温度で落ち着くなと感じる。
ずっと一緒にいてほしいな。
見上げると透が私を見つめて微笑んでくれる。
そんな時間が心地いいんだ。
彼の想いはずっと一途でぶれなかったらしい。
その想いに応えたいと思う私がいた。
指輪入れに大切にしまっているおもちゃの指輪はお金では買えない想い出の品物となった。
毒舌論破系としてネットでは存在感を醸し出す彼。
私の前では溺愛系甘え上手な結婚相手となった。
『朝霧透さんの初恋の思い出を教えてください』
相談以外の雑談もお金を払って朝霧に送る者は多く、本気の相談ばかりではないというのが実情だった。
だから、こんな質問もよくあるので、あまり目立たない。
夏祭りの頃から気になっていたことだ。
忘れられない初恋の人のこと。
「はーい。いつも元気な朝霧透でーす。朝霧流、はじめまーす。今日は噂の助手が声だけ出演しまーす」
にこやかな配信の撮影が始まる。
これをうまく編集して面白い感じに動画として配信する。
撮影するのはもっぱら私の役目となった。
今日は相槌を打つ係として声だけ出演してくれって言われてしまう。
「俺の初恋聞いちゃう? 俺の初恋は中学時代に出会った人なんだよね」
「マジですかぁー」
いつもよりテンション高めの声を出す。
これもちゃんとシナリオがあり、事前に入念な打ち合わせがあった。
顔は出していないけど、助手初めて声だけ出演ということで、少し新鮮味を出したいらしい。
「実は俺には許嫁がいるって中学時代に知っちゃってさ、こっそりどんな人か見に行ったんだよね」
「うそ? 許嫁なんていたんですか?」
ここは本気で驚いてしまった。
初耳だ。というか私以外にも許嫁がいたなんて。
「一目惚れだったよ。その子が好きなキャラクターが偶然にも俺も集めていたキャラだったんだよね。そのキャラクターの限定グッズを持って話しかけようとしたんだけど、全然話せなくって。勇気を持ってキャラクターの話をしたんだけど、少し話してすぐに終了しちゃってさ。全然面白くもなんともない話なんだけど、この話には続きがあるんだよね」
「そんな過去があったんですかぁ」
「偶然にもその子が同じ大学にいたんだけど、もう好きな人がいてさ。じゃあ、いっそのことその恋応援しちゃおうって思ってさ。今、助手してもらってるんだよね。だから、結婚するつもりもないし、初恋はいい思い出にしようって思ってさ」
それって、私のこと? 勘違いだったらどうしよう。
でも、助手っていえば私しかいない。
それに限定グッズっていえばこのウサギのキャラクター、モフウサのことだろうか。
昔から私はモフウサというゆるキャラが好きで、中学の頃はグッズを結構持っていた。
今でも、持ってるけど、そんなにメジャーじゃないキャラだから、大学で出会った朝霧が持っていた時には驚いた。
かわいいキャラクターが好きなタイプには見えなかったし。
「覚えてる? 助手さん」
朝霧は真剣な目をしていた。
「そういえば、中学生の時に塾の帰りに男子に話しかけられた記憶があるけど、親が迎えに来ていて、それ以来会うこともなくて」
「実は、何回か話しかけようとしたんだけど、タイミングが合わなくて、難しかったっていうのが本当のところなんだよね」
「そうだったんですか?」
「でも、好きな人がいるなら、応援したいと思ってさ。結婚したフリでもなんでもいいから友達として一緒にいたくて、バイトをお願いしてたりするんだけどね」
「ドッキリじゃないですよね?」
朝霧ならありうる。
「実はライブ配信してるけど、助手の顔は出してないから。公開告白は成功するかみたいな企画なんだよね。公開処刑でフラれるのもありかなって」
「どうして、あなたの人生を配信しちゃうんですか。生き恥さらす気ですか?」
「こうでもしないと勇気が出なくて。がんばれってメッセージがいっぱい入ってくると勇気が出るからさ」
いつの間にかライブ配信されていた。
朝霧流の今日のテーマ【初恋は実るのか? 朝霧透の公開告白!! ライブ生配信】。
「どうしようもない人ですね。この質問を匿名で送ったのは私です。だって、おもちゃの指輪が捨てられないことに気づいたんです。お金じゃ買えない指輪だなって」
驚いた顔をする朝霧。
指輪を動画に写す。
『おもちゃの指輪って何?』
『助手さんと両思いか?』
『許嫁なんてあるんだ』
『がんばれ透!!』
などとコメントがたくさん瞬時に流れる。
「あなたはもっとチャラくていい加減なのかと思ったけど、誠実で真面目で一生懸命に仕事をしていて。一緒にいると和むんです」
「あれ? その流れって初恋は実るってことでいいのかな?」
朝霧は余裕の笑みを浮かべる。
「全然好きじゃないですけど。いないと困る存在だなって思うんです」
モフウサを動画に写す。
「マジで俺と結婚しちゃう?」
「これがプロポーズですか?」
「だって、朝霧流だから、こういったノリになっちゃうんだよね」
「ちゃんとしたプロポーズしてください」
もうシナリオなんてない状態で話している。
生配信は何が起こるかわからない。
「プロポーズは配信が終わったらするんで、仮でお返事いただけますか?」
チャラくない朝霧透がそこにはいた。
「お返事は配信の後に」
動画配信の最後に朝霧は私の左手の薬指に指輪をはめた。
おもちゃの夏祭りでの想い出の指輪。
『おめでとうでいいのかな?』
『マジで朝霧透に恋してたのに』
『本気で結婚するのか?』
コメント欄は過去最高の流れとなっていた。
「じゃあ、今日の朝霧流【初恋は実るのか? 朝霧透の公開告白!! ライブ生配信】これにて終了」
そのまま配信は切れる。
「もう、配信も切ったんで、告るよ。フリではなく本当に結婚してくれる?」
「突然のことで、戸惑ってます。でも、まずはお付き合いからならば前向きに検討したいと思っています」
心臓はバクバクで緊張の連続だ。
「マジか―最高にうれしい!!」
朝霧が抱きついてきた。
そして、どさくさに紛れて、キスまでしようとしたので、つい手のひらで彼の唇を覆ってしまった。
こんなに急にそんな展開に持っていかれてもこちらの気持ちの準備というものがある。
自分勝手で、子供みたいにはしゃぐ姿は愛おしさすら感じた。
「桜葉くんへの思いもまだ、片づけていないのに!!」
「いや、俺は桜葉に勝つ自信あるから、愛華ちゃん、愛してる」
そう言うと、彼はそのまま私をぎゅっと抱き寄せた。
人生初の男性に抱きしめられるという展開についていけない私は、契約結婚するフリではなく、本当に結婚する予定となった。
恋愛や結婚はタイミングと縁と運が重なった時に進む。
朝霧流で良く彼が言っていることだが、それは本当だと肌で感じた瞬間だった。
彼の肌のぬくもりは私には心地いい温度で落ち着くなと感じる。
ずっと一緒にいてほしいな。
見上げると透が私を見つめて微笑んでくれる。
そんな時間が心地いいんだ。
彼の想いはずっと一途でぶれなかったらしい。
その想いに応えたいと思う私がいた。
指輪入れに大切にしまっているおもちゃの指輪はお金では買えない想い出の品物となった。
毒舌論破系としてネットでは存在感を醸し出す彼。
私の前では溺愛系甘え上手な結婚相手となった。


