キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 如月くんの瞳を見つめて、弱音を吐く。

「でも、……また恋をするのは、怖い」

 まばたきをしたら、眦から涙がこぼれた。
 涙で揺らぐ視界のなかで、如月くんが目を眇める。

 痛みを堪えるような、ぎこちない沈黙。

「……わかりました」

 と、如月くんが言った。だから、彼と私の恋は、始まらないまま終わると思った。

 ――だけど。

「それなら――俺が先輩を諦めれば、話を聞き入れてもらえますか?」

 眼差しの温度を涼やかにして、如月くんがそう問うた。

 え、と私のくちびるからは調子の外れた声がこぼれた。

「いくつか、見合い話が来ているんです」

 唐突にそんな事実を明かした彼は、束の間辟易した表情を見せる。

「だから、婚約者になってくれませんか」

「は……、」

 ささやかに混乱する私を見つめて、如月くんは続ける。

「俺は、不本意な見合い話を断るため。先輩は、新居を見つけるまでの仮住まい。ついでに、最低の元カレに俺を見せつける」

 俺って、結構優良物件だと思いますよ――悪戯っぽく付け加えて、如月くんが口の端を持ち上げる。
 子犬みたいな可愛らしさは、もうどこにもない。

「利害一致の契約として、婚約者として一緒に暮らしましょう」

 手加減のない間合いで、彼が畳みかける。

「ね、先輩。俺の、“契約上”の婚約者になってください」

 私に提示する声音は、世界と駆け引きする御曹司の余裕。

「今日限り――俺は先輩を愛しませんから」

 私は、彼の手腕に圧倒された。
 子犬みたいに可愛い後輩。

 こんなに鋭い微笑みを、今までどこに隠していたのだろう。
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