キスは契約違反です!! ~年下御曹司と期間限定ルームシェア~
 如月くんが約束してくれた通り、最高の時間をレストランで過ごした。上質な余韻に浸りながら、秋めいた夜の街を歩く。

 パーキングに停めていた如月くんの車に乗り込んだ。送ってくれるという彼に、駅前のビジネスホテルを告げた。途端、シャボン玉が弾ける呆気なさで、現実がよみがえってくる。

 それでも、ちゃんと気丈に見えるように、顔を上げた。

「今日はありがとう」

 と、如月くんに笑った。

 如月くんは笑わなかった。私と裏腹に思い詰めたような表情をして、運転席からこちらへ向き直る。

「俺のマンションで一緒に暮らしませんか」

 え、と私は戸惑いの息をこぼす。運転席から身を乗り出した如月くんが、私との距離を詰める。

「先輩、」

 彼の眼差しがはらむ、熱っぽい恋の予感。なすすべもなく呑み込まれそうになるけれど、

「……駄目」

 掠れた声でそう制した私は、如月くんから眼差しを逸らす。

「如月くんには感謝してる。……でも、」

 耳の奥によみがえるのは、可憐に笑う結衣の声。
 それに、ほとほと疲れ切った翔太の声。

 ガツガツしたおばさん。
 もう女として見れなくて。

 そんな言葉に傷ついたりしないと肩肘を張って――だけど、本当は仕事すらまともにできなくなるくらいに傷ついていた。

 ずっと、ひたむきに頑張ってきた営業という仕事。
 大好きな仕事なのに、もしもまた傷だらけになったら、今度こそ失ってしまうかもしれない。
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