Happily ever after
片瀬優子の場合
chapter1
目覚ましが鳴るより早く目が覚め、優子はのっそりと起き上がった。
ゴールデンウィーク初日、例年なら春の終わりを予感させるくらいに暑くなるが、今年はいやに涼しい。
これくらいなら、予定していたドレスを着ても汗をかかないだろう。
「んんー!」
寝起きのドスの効いた声で唸りながら大きく伸びをし、勢いをつけてベッドから降りる。
予定より1時間早く起きれたのだから、ヘアメイクに時間をかけられそうだ。
カーテンを開け、ケトルでお湯を沸かしているうちに洗顔、歯磨きを済ませる。
今日は仲の良い後輩の結婚式だから、スキンケアは念入りに。
実は結婚式に参加するのはまだ4回目である。
学歴が上がると婚期が遅れるというのはあながち間違いでは無かったようで、大学院を卒業してから就職した優子の周りはまだ独身ばかりであった。
ここ1、2年で学部で同期だった友人達が結婚しはじめ、つい最近まで彼氏がいた優子も、そろそろ身を固めるかと考えていた。
しかし2ヶ月前に、2年と2ヶ月付き合った年上の彼氏とは別れてしまった。
「あーあー行きたくないなー」
手抜きは一切せず、きちんと準備はしている。
普段以上に丁寧に下地を塗り込み、誕生日にもらったディオールのアイシャドウを開封するが、それでも気分は上がらない。
つい漏れた本音を、付き合いの古い友人達が聞いたらどう思うだろうか。
上京してから12年、一人暮らし歴も12年。
その時々に付き合っていた彼氏と同棲の話しが出たことは何度かあるが、毎回実現しないまま破局に至っている。
今回別れたのも、まさにその同棲がきっかけであった。
元カレ、村田裕樹はちょっと面倒くさい男だった。
口では男女平等を謳っているが、本音としては結婚後には女性には家庭に入ってもらいたいタイプで、物事の主導権を握られるのも内心嫌がるタイプだった。
自身は仕事を優先しプライベートを犠牲にするが、パートナーにそれをされるのは嫌というわがままな気質。
惚れた弱みか、優子は彼のそんなわがままなところすら愛おしかった。
付き合って2年目の記念日に同棲の話しを持ちかけたのは、優子の方だった。
「今すぐとは言わないけど、同棲したい。このままたまにうちに泊まりに来るだけで、いきなり結婚ってのは不安だし…」
自分のテリトリーを侵されるのが嫌だから。
そう言い張り、裕樹は絶対に優子を自宅に入れなかった。
あまりに頑ななその態度に、実は既婚者なんじゃないかと疑った優子だが、彼の数少ない友人がしっかりと独身を証明してくれた為、不倫疑惑は払拭された。
彼なりの妥協として、住所を教えてくれたこと、自宅の前までは連れて行ってくれたことを受け止め、優子はいったんそれで良しとしていた。
そこに至るまでおよそ1年。
このまま彼のペースに合わせていたら、結婚する頃には35を超えているだろう。
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