Happily ever after
お互いにもう良い年なのだから、それなりにスピード感のある付き合いがしたい。
優子がそう思ったのが、悲劇の始まりだった。
「同棲って、本当に必要?もし別れたら、次の家見つけるまで一緒に住むか、誰かの家に押しかけることになるよね?あるいは実家に帰るか」
同棲を嫌がられたことより、2年も付き合っているのに裕樹が別れることを想定していたことの方がショックだった。
その日を境に、ケンカが増えた。
付き合い始めた頃からケンカは多い方であったが、常に優子が折れることで関係は保たれていた。
今回だけは譲らない。
そう決意する中で、もしかしたらこれがきっかけで別れるかもしれないという予感はあった、
その予感が当たったのが、2ヶ月前である。
「別れよう。これ以上俺のわがままに優子を付き合わせるわけにはいかない。今までありがとう」
ズルい言い方だと詰りたいのを我慢して、優子は別れを受け入れた。
うちに置いてあるパジャマとかどうする?
捨てるのもったいないから持って帰って欲しいけど、嫌ならこっちで処分しておくよ。
あ、合鍵今日持ってないでしょ。
近く通りかかった時で良いからポストに入れておいて。
まるでなんてことない雑談をしているようなテンションで淡々と別れを受け入れている優子の様子を見て、別れ話を切り出した裕樹の方が目に見えて動揺していた。
どれだけ喧嘩しても最終的には折れていた優子の対応に慣れきっていたからか、裕樹は信じられないとでも言いたげな瞳で優子をじっと見ていた。
今、前言撤回すれば別れ話を無かったことに出来る。
頭ではそうわかっていたが、優子は別れを選んだ。
まだまだ痛みが残る記憶から浮上した時には、時計の針が30分以上進んでいた。
スマホの画面が光り、矢継ぎ早に通知が来始める。
このテンポ感は、まず間違いなく地元の幼なじみたちだ。
確信を持ってロックを解除すれば、やはり幼なじみたちが朝から盛り上がっている。
《納期より前に仕事終わった》
《すっご!さすが仕事の出来る女!じゃあ今夜あおいも来なよ!》
《場所どこ?》
《恵比寿のうしみつ》
《ちょっと遅くなったけど花凛の上京&転職祝いってことで、奮発しちゃった》
《へへっ、ゴチになります!》
出会った時と何一つ変わらないテンポのやり取りを見ていれば、心に平穏が戻ってくる。
3人に無性に会いたくなり、気づいたらLINEにメッセージを打ち込んでいた。
《結婚式終わったら私も行っていい?今日は飲みたい気分で》