Happily ever after
サラッと言われた言葉を理解できず、優子は一瞬フリーズした。
「……えっ!?」
「すみません、ソースついてるって、あれ嘘です。スマートに奢る口上が思いつかなかったから」
照れた様に笑い、やや早口でそう言う山崎の目を思わず凝視し、優子は口をポカンと開けた。
「とりあえず出ましょう!あ、荷物持ちます」
早い足取りではあるものの、優子がついていけなくはない程度のスピードで、山崎は店を出た。
自分の分だけではなく、優子のトートバッグもちゃっかり持っている。
人に荷物を持ってもらい手ぶらで歩くという普段しない事をしているからか、なんだか頭がフワフワする。
「あの、申し訳ないので自分の分は自分で払います!」
地上に出たタイミングでようやく思考が戻ってきた。
先を歩く山崎にそう申し出ると、彼は緩く首を横に振った
「その気持ちは嬉しいですけど、ここは奢らせてください。俺の方が年上だし、多分収入も多いだろうから。年下とご飯行って割り勘なんて、恥ずかしいですし」
そういうものなのだろうか。
優子の元カレで年上だった人は、直近で別れた裕樹だけだ。
彼は年こそ上だったが収入は優子とそう変わらなかったからか、付き合っている期間の大半は割り勘だった。
山崎が年上の沽券というものを大事にするタイプならば、彼の面子を潰す様な真似はしてはいけない。
ここはありがたく好意に甘えることにし、優子はぎこちなく御礼を言った。
「あ、ありがとうございます。その、あまり奢ってもらったことが無いので、良い反応が出来ず申し訳ないです」
「そうなんですか?うわあ、新鮮」
「えっ?」
「いや、奢られ慣れていない女性とデートするの初めてだから」
デートという言葉の響きがいやに頭に残り、急に緊張が襲ってきた。
そんな自分の子どもっぽさを誤魔化すべく、優子は努めてなんでもないように振る舞った。
「山崎さん、良かったら食後のコーヒーなんていかがですか?行きつけの喫茶店があるのですが」
「そこ、甘いものってありますか?」
「ありますよ。って、まだ食べるんですか!?」
「デザートは別腹ですから」
山崎は実はけっこうな健啖家だったらしい。
また一つ、彼について新しい一面を知った。