Happily ever after

ザクザクと小気味良い音を立てて揚げたてのカツにかぶりつく山崎の歯を見て、その歯並びの良さと色の白さに優子は見惚れた。
歯磨き粉や歯ブラシのCMに起用できるほど、真っ白で完璧な歯並びだ。


「んーっ、美味い!!ここのカツ、めちゃくちゃ油キレが良いというか、口の中が全然油っぽくなりませんね。味噌汁も漬物もクオリティー高いし、米が止まらない!片瀬さんのお店選びの基準が高すぎる」


臆面もなく褒められて恥ずかしくなるものの、嬉しいには嬉しい。
にやけそうになるのを誤魔化して、優子もヒレカツを頬張った。

口内にじんわりと広がる肉汁と、かすかな塩気、ソースの酸味が心地良くて、つい無言になってしまう。
やはりここのカツは何度食べても美味しい。

しばらくは2人とも食事に集中していたため、無言の時間が続いた。
次に会話が再開したのは、山崎が肉だんごを齧ってからだった。


「うわっ、これも美味い!」

「でしょう?ここの肉だんご、そんじょそこらのお惣菜屋よりはるかにレベルが高いんですよ!」

「これも米が進むなあ。どうしよう、おかわりしようかな」

「あ、ここご飯のおかわり自由ですよ」

「よし、するか。片瀬さんは?」

「うーん、私はいいや。お腹が苦しくなりそうなので」


細い体のどこに入っていくのか、結局山崎はご飯を2度おかわりした。
28を過ぎてから食欲が激減した優子は、予想通り段々胃が苦しくなってきた。
おそらく、食べ終わる頃には満腹に近い状態だろう。


(またもや思わぬ出費になっちゃったけど、美味しかったから後悔は無い!!)


節約は長年学生をやっていたため、わりかし得意だ。
しばらく食費を切り詰めればどうにかなるだろう。
直前までの悩みが無かったことになるのだから、美味しいものとは偉大である。


「あ、片瀬さん、口の端にソースついてますよ」

「え、どっちですか?右?左?」


山崎の指摘に慌てておしぼりを掴むが、どうも違う場所を拭いているらしい。
トイレで鏡を見てくるように勧められたので、ついでに化粧も直そうと優子はカバンからポーチを出して席を立った。

誰か入っていたようで何分かは待ったが、無事にトイレに入り鏡を見る。
しかし山崎が指摘していたソースの跡はどこにも見当たらない。

不思議に思いながらもティントを塗り直し、ついでにフェイスパウダーもはたく。
しっかりめに化粧を直して席に戻ると、山崎が荷物を抱えて待っていた。


「良いお店を紹介してくださりありがとうございました!じゃ、出ましょうか」

「はい、じゃあお会計……」

「あ、もう済んでます」




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