Happily ever after
高いから普段使いはしないが、自分で自分を褒めたくなるような結果が出せた時には行きたい。
優子にとって、ここ、トリコロール本店はそんな立ち位置の店である。
運良く空いている時間に入れたため、2人は待つ事なく席に案内された。
「おすすめはカフェオレです。コーヒーとミルクの比率を自分で選べるんですよ。それから、ケーキも美味しいのでおすすめです!」
「ふむ、チーズケーキにサバラン……良いなあ。いやでも、チョコも良さげで迷う。片瀬さんは何にします?」
「私は今はお腹空いてないので、カフェオレだけで」
「うーん、じゃあ俺はこのケーキとドリンクのセットにします!チーズケーキが気になる」
注文を済ませて程なくして、お冷が2つ運ばれてきた。
重厚感があるが洗練された作りの店内を眺め、ここに最後に来た日のことを思い出す。
あれは確か、今の会社で初めて昇進した日だった。
「片瀬さん」
遠慮がちな山崎の声に現実に引き戻され、優子はやや遅れて返事をした。
「なんでしょう?」
「片瀬さんの過去の話しをお聞きしたいなと。嫌でなきければ、ですが」
「ああ、かまいませんよ。別に隠すような大層な物でもありませんし」
「では、遠慮なく。進学先に東大を選ばれたのには何か理由があるのですか?」
戸惑ったような顔になったのは、やはり話したくないと思ったからではなかった。
毎回この質問をされるたびに、どこから話せば良いのか、いまだに答えが見つかっていないからだ。
「色々な偶然が重なった結果……ですかね。一つ目の理由に、私は地元の大学に行く気はありませんでした。地元で進学した場合は一人暮らしは不可能でしたから」
「一人暮らしは不可能?」
「私の家族構成については以前お話ししましたよね?」
「確か、ご両親とお祖母様、お兄様が3人でしたっけ」
「そうです。祖母以外の全員が、私が大学に行くのを反対していました」
何を言われたのか理解出来ないという顔で、山崎が固まった。
そのタイミングでカフェオレが運ばれてきたので、優子は一時的に話しを変えた。
「私はミルクをやや多めで。山崎さんは?」
「え?あ、じゃあ俺は半々で」
ギャルソンがその場で作るカフェオレの匂いに、自然と顔が緩む。
一口飲めばホッとする美味しさで、優子はしばらく無言になった。
山崎も同じようにしばらくは無言でカフェオレを味わっていたが、チーズケーキを食べた瞬間にその整った顔立ちがだらしなく崩れた。
「んーっ、俺好みの味!甘酸っぱい!重くない!カフェオレにぴったり!」
「ここのチーズケーキ美味しいですよねえ」