Happily ever after
よっぽど気に入ったのか、早くもケーキは残り一口というところまで減っていた。
最後の一口を大事そうに頬張ってから、山崎が話しの続きを促した。
「お祖母様以外全員反対って、何かご家庭の事情とかですか?」
「無いですよそんなもん。うちの家族の口癖は、女の子には学歴なんていらないでした。でも悲しいことに、兄達よりも私の方が昔から成績が良かったんです。それもはるかに差をつけて」
頭が悪いよりましだけど、あまりに出来が良すぎても可愛げがない。
いつだったか、テストで100点を取った時に、褒められるどころかため息混じりにそう母に言われたことを鮮明に覚えている。
「兄達は塾に通っていましたが、私は通わせてもらえませんでした。もう十分すぎるほどあんたは勉強出来とるけん、受験勉強はほどほどにしてもっと家事を手伝いなさい。そう言って、父も母も私に勉強に集中する時間を与えませんでした。高校受験は地元の公立校のみと決められて、理数科に行くつもりだったのに勝手に願書を書き換えられ、普通科に通うことになって。別に将来やりたい事が決まっているわけではなかったけど、性別を理由にあれやるなこれやるなって言われるのがすごく嫌でたまらなかったんです」
「なんというか……過酷な環境でしたね」
山崎が言葉を選んでそう言っているのが伝わり、優子は暗い笑みを浮かべた。
「毒親だな、って思ったでしょう?恐ろしいことに、うちの地域全体がこんな感じだったんですよ。だから、大学は絶対遠方に行くって決めてました。東大を選んだのは、3年時に所属する学部が決まるので、入学後しばらくは進路を考えられるからです。それに、頑張れば手が届かなくもないギリギリのラインだったから。あとは、祖母が応援してくれたのが決め手でした」
「ご家庭内での唯一の味方だったんですね」
「うちの祖母は戦後の女性にしては珍しい、大卒のキャリアウーマンだったんです。祖父が生きているうちは私の教育方針を巡って、両親と祖父ともよくケンカしていました。高校2年時に祖父が亡くなったことで祖母の発言権が強まったのですが、そのおかげで私は塾通いと東大受験が許されました」
「そんな環境でよく合格出来ましたね。すごいですよ」