Happily ever after
まだキスしかしていないが、優子はこれまで体を重ねてきた男たちと山崎は決定的に違うことを本能的に悟っていた。
山崎は、すべてがゆっくりだった。
キスの合間に舌を絡めるのも、小休止に耳を愛撫するのも、首筋から鎖骨にかけて舌を這わせるのも。
焦らすように、というよりも、文字通り優子の肉体を味わっている。
ワンピースのボタンはすべて外され、キャミソール越しに胸を揉まれる。
性感帯でもないただの脂肪の塊を触られたところで気持ち良くなるわけがないが、山崎が欲望のままに触っているという事実が優子を興奮させた。
キャミソールの中に入って来た大きな手が、ブラのホックの位置を突き止める。
ホックを外されていたことに気がついた時には、彼の指が胸の先端に迫っていた。
触られるその瞬間を、息を止めて待つ。
しかし山崎の手はギリギリのところで胸から引いた。
「さすがに邪魔だな。脱がせますね」
わざわざそう宣言し、山崎は優子の体にまとわりつく布をすべて取り払った。
ショーツを脱がされたその時、今さらであるが優子は室内が煌々と明るいことに気がついて恥ずかしくなった。
「ま、待って!明かり消してください!!」
急いでベッドのシーツを剥がして体に巻きつけるが、時すでに遅し。
山崎はクスクス笑いながら明かりを消す。
優子は、室内が思ったほど暗くならないことに気づいた。
窓の外に広がるオフィス街の無数の灯りが部屋に差し込むため、電気を消したところで室内は暗くならない。
羞恥で体が固まる優子を気にすることなく、山崎は自分も服を脱いだ。
脂肪もなければ筋肉もない、どちらかというと細身の体だが、抱き寄せてきた時の体温の高さや肌の質感から、改めて目の前にいるのが異性なのだと実感する。
「片瀬さん、一つお願いがあるのですが」
「なんですか?」
「名前を呼びたいです」
綺麗なアーモンド型の瞳が、見下ろしてくる。
その瞳の奥に覗く熱に飲み込まれて、優子は無意識に了承の返事をしていた。
「私も、名前で呼びたいです」
「優子さん、俺の下の名前覚えてますか?」
「勿論です……健吾さん、そろそろ焦らすのやめてくれません?」
可愛らしくねだることなど出来ず、色っぽい所作や口説き文句も思いつかず、優子は不貞腐れた表情でせっつくことしか出来なかった。
しかし、そんな態度でも山崎には刺さるものがあったらしい。
骨ばった手が、優子の足の間に伸ばされる。
グチュッと粘ついた音を立てて、山崎の指が飲み込まれていった。