Happily ever after
幼い頃から友達は男だけ、家族構成は両親以外は弟2人、職場は9割以上男性と、健吾は男社会しか知らない。
だからか、たまにデリカシーに欠けた発言をしてしまう。
女性の発する言葉からその真意を汲み取るのも苦手だ。
あらぬ誤解を生んだりしない為、健吾が編み出した処世術は〝なんでもオープンに話すこと〟だった。
「すみません優子さん。俺、女性と接したことがほぼ無いからか、気持ちを察したりって苦手なんです。自分がはっきりモノを言うことに抵抗が無いからか、どうにも頭が回らなくて……だから単刀直入に聞きます。好きだって言ったの、迷惑でしたか?」
「ん?え?なんで?」
素でわからないのか、優子は目を丸くしている。
しかも口調まで崩れている。
そのリアクションを見る限りは、まだ望みはありそうだ。
「待つのが嫌になったら、って、昨日告白したばかりなのにそう言ってくるということは、返事をしたくないのかなって思ったんです。俺に諦めて欲しいのかなと。勢いに流されて検討すると言っただけなら、遠慮なく断ってください。もしそこまで深い意図が無いのなら、今後は他の人を見つけろだなんて言わないでください」
あなたを好きでいる事そのものを否定されているみたいで辛いから。
そう呟けば、みるみる優子の顔は真っ赤に染まっていった。
「素でそういうこと言うんだから、タチが悪い」
顔を背けて、消え入るような声でそう言った優子は最高に可愛い。
文字通り心臓を鷲掴みにされた山崎は、顔がにやけそうになるのを必死で堪えた。
数回深呼吸をする事で平静さが戻ってきたが、同時にあることに気づく。
それは、優子の自信のなさだ。
これまで経験した恋愛について積極的に話してくれたことはまだ無いが、言動の端々から大事にされた経験が無いのがわかる。
勝機を見出すとしたら、そこだろう。
「本当、優子さんって可愛いよなあ」
心の声のつもりが、しっかり口に出していたらしい。
さらに顔を赤くした優子が睨みつけてきた。
「健吾さん、なんかちょっと楽しんでません?」
「うん、正直楽しい。上手く言語化出来ないけど、楽しい」
今度こそ、健吾は顔がゆるゆると崩れていくのを抑えられなかった。
だらしなく相好を崩している自覚はあるが、もう止められない。
ふと、車内に沈黙が広がった。
しかし、健吾は無理に話しをしようとはしなかった。
相手が優子ならば、この無言の空間も癒しとなるからだ。
それに、必死で話題を探さなくても、きっとすぐにまた会話が始まるという確信があった。
「お腹空いたなあ……」
そう優子が言うや否や、盛大に腹が鳴った音がした。
つられたかのように、健吾の腹まで鳴り始める。
「もう昼飯時だもんなあ。優子さん、どこか行きたいお店はありますか?」
「ちょっと待ってください。考えます!」