Happily ever after
山崎健吾の場合

chapter1



それなりに恋愛経験はあるが、なぜかいつも長続きしない。
最後に彼女がいたのは、もう6年も前だ。

健吾は助手席に乗る優子を盗み見て、必死で平静を装った。
仕事で散々運転をしているが、休日も時間があれば車をどこかに飛ばしている。
そんな彼の愛車は、去年買ったばかりのBMWの320iだ。
積もりたての雪のように混じり気の無い美しい白の車は、健吾の人生で一番高い買い物であった。

いつか、助手席に彼女を乗せてドライブに行きたい。
この車を買った時に密かに願ったことが、半分だけ叶った。

彼女ではなく意中の女性だが、男友達以外を乗せて走っているだけで緊張ものである。
カラカラに乾いた喉を潤そうと飲み物に手を伸ばせば、察した優子がキャップを外して渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ。送っていただいてるんですから、これくらいして当然です」


淡く微笑むその横顔にまたときめきを感じ、健吾は急いで視線を逸らした。

優子は、これまでに出会った女性たちとはまったく違う存在だった。

実年齢よりはるかに幼く見える愛くるしい顔立ちや華奢な体つきは男の庇護欲をそそるが、彼女の中身はとにかくパワフルだ。
地元の男女差別を撥ねつけて上京し、東大の院を卒業し、誰もが知る化粧品メーカーの研究職についている。

そんな力強い人だからか、優子は女扱いされることに慣れていない。
奢られることも、プレゼントをもらうことも、申し訳なさを全面に出しながらありがとうと言ってくる。

そして、自分が与えてもらったものを返すにはどうすれば良いかをいつも考えている。

いつから彼女を好きだったのかはもうわからない。
仕事中であるにも関わらず連絡先を聞いたのだから、おそらく一目惚れだった。

しかし、今自分が彼女の好きな部分の一つして確信しているのは、与えられることを当然と思っていない謙虚さだ。


「健吾さん」

「はい?」

「わがまま言っちゃってすみません。あの、待つのが嫌になったら他の人を見つけてくださいね」

「うーん……」


今の発言は一体どういう意味か。
優子の真意を測りかねた健吾は小さく唸った。



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