Happily ever after


「俺にとっての正念場は今だ。だから今は思いっきり優子さんにお金と時間を使う。付き合ったら蔑ろにするって言いたいわけじゃない。付き合うってスタートラインに立つ為の投資がしたいんだ」

「……そういう考え方も、世の中あるんですねえ」


どこか他人事のように優子が呟いた。
そしてじわじわと首筋から顔にかけて赤みを帯びていき、最終的に顔を手で覆いはじめた。


「健吾さんってけっこうキザですよね。その顔とその声でその台詞はまずいですよ。兵器です」

「うっ、さ、さすがにキモかったか……すみませんでした」

「まったくキモくないから困ってるんじゃないですか。なんなんですかもう、本当、勘弁してくださいよ」


優子はいきなり無言になった。
まだほんのり赤い顔と少し緩んでいる口元を盗み見た限り、キモいと思われていないのは本当のようだ。

ふと後ろを見ると、案の定渋滞が起こり始めていた。
どうやら、ギリギリのところで巻き込まれずに済んだようだ。


「あ、シュラスコの店名を教えてください」

「教えるよりもカーナビに入れちゃった方が早いですよね?ちょっと失礼しますね」


腕を伸ばしてカーナビを入力している間、筋肉痛がまだまだ残っているのか、優子は情けない悲鳴をあげていた。


「ううっ、痛い……朝よりずっと痛い」

「かわいそうに」

「健吾さんがピンピンしているのムカつくなあ」


目的のシュラスコ屋の周辺には駐車場が無い。
歩いて2〜3分に範囲を広げればちらほらとあるが、満車である可能性もあるため、効率良く探したいところだ。
カーナビを見て同じ事を思ったのか、優子はある一点を指した。


「この辺りから駐車場探してみませんか?そうすれば満車だったとしても、次に行きやすいですよ」

「そうしようかな。ありがとう」


何気ないやり取りが幸せで、健吾は再びニヤつきたくなるのを堪えた。



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