Happily ever after
「はあー、満足満足」
両手にビニール袋を持って、山崎はすっかり相好を崩している。
初日ということでそこそこ混んでいたが、それでも満足行くまで2人はお気に入り漫画家のポップアップを楽しめた。
「山崎さん、すごい量のお土産ですね……」
「限定グッズには目が無いんですよ。普段出掛けないから貯金はあるし、こういう時には我慢せずに欲しい物は買うって決めてるんです!」
真っ白な綺麗な歯をのぞかせて屈託なく笑う山崎はまるで少年のように無邪気だ。
先週幼なじみたちと会うのに散財してしまい、今月の小遣いがかなり少ない優子とは大違いである。
(そういえば先月カード使いすぎてヤバいんだった……夕方には解散したいなあ。晩ごはんまで外食ってなるとちょっと財布が苦しい)
普段から決して無駄遣いをしているわけではない。
だが、ここ最近の出費はすごい。
奨学金の支払いがいつまでも続くのが嫌で、一気に残り50万円分を支払ったのが3月。
先月今のアパートに引っ越したのと、今月は職場の後輩の結婚式に参加して、幼なじみと贅沢なディナー。
使った金額を考えると恐ろしいが、どれもこれも必要経費だ。
「ところでお昼はどうしましょう?片瀬さん、どこか行きたいところはありますか?」
「あ、実はいくつか候補考えてました。山崎さん、とんかつはお好きですか?」
「とんかつ、大好きです!!」
目をキラキラ輝かせて振り向いた山崎に微笑み、優子は内心安堵していた。
(よっし、ランチ代は千円台で済ませられる!!カフェでコーヒーを一杯飲むくらいの余裕は出来た!)
「美味しいお店を知っているので、そこでお昼にしませんか?」
「俺、銀座はよく来るんですけど美味しいお店とか全然知らないのでありがたいです!なんて名前ですか?」
片手に荷物を寄せて調べようとする律儀さに心が温かくなり、優子は山崎の肘に軽く触れた。
「とんかつ銀座梅林ってところです。ここからだと歩いて4〜5分ってところかな?場所は覚えているので、ご案内いたしますよ」