Happily ever after
優子は外食をする際に決めていることがある。
それは、なるべく安くて美味しいお店を発掘すること。
高いお店が美味しいのは当たり前なのだ。
真に価値のある飲食店とは、安いのにクオリティーが高いお店である。
ここ、とんかつ銀座梅林も、銀座という立地にしてはかなりリーズナブルな店だが、値段に反比例した美味しさなのだ。
人付き合いやデートで銀座にある他のとんかつ屋に行ったことは何度もあるが、ここ以上に安くて美味しい店は今のところ見つかっていない。
「うわあ、どれも美味そう!迷うな〜」
「おすすめはミックスフライ定食です。ここ、カツだけじゃなくてエビフライも肉だんごも美味しいんですよ」
「じゃあ俺それにします!片瀬さんも同じの?」
「えーと……私はメンチカツライスにしようかなと……」
会話をぶった斬るような勢いで、山崎が店員を呼んだ。
そしてあれよあれよという間にミックスフライ定食を2人分注文されてしまう。
店員が注文を復唱して去って行ってから、山崎は優子のお冷を継ぎ足しながら言った。
「本当はミックスフライ定食が食べたかったんじゃないかなって思ったから勝手に注文しました。量が多かったら俺が食べます」
「なんでわかったんですか?」
「俺、誰かが我慢してるのに気づきやすいんです。子どもの頃から母親の代わりに弟を2人育ててきたからか、そういう勘は働くんですよ」
「お母様の代わり、ですか?」
「お袋が死んだのは確か俺が高校3年の時だったかな?俺が中学に入る頃からお袋はしょっちゅう入退院を繰り返していたから、家事は主に俺がしていました。弟2人の育児はお袋と協力して乗り切って……」
「……そうだったんですね」
「親父は仕事で海外に行っていたから戦力外だったんです。でもって、親父の稼ぎだけじゃ弟たちを育てるのに心許なかったから、大学には行かないで就職しました」
「ってことは、高校を出てすぐにタクシードライバーに?」
「そうです。この仕事は2日に1日は休みになるから、家事や育児との両立も出来ると思って。1番下の弟が就職して実家を出たので、俺も自分の人生を謳歌しようと思って今の会社に転職しました」
思わぬ形で山崎の過去を知ることになった。
ちょうどそのタイミングでミックスフライ定食が来たので、一瞬会話が途切れる。
食欲をそそる香りにお腹が盛大に鳴った。