Happily ever after
翌日、待ち合わせはGINZA SIXのスターバックスを指定した。
早めに到着して仕事のメールを返しながら山崎を待つのも良いかもしれないと思い、モバイルバッテリーを探す。
自宅の最寄りである千川から銀座一丁目まで28分。
GINZA SIXに着くまでの所要時間は37〜38分といったところか。
電車に乗ったタイミングで、山崎からLINEが来た。
《すみません、渋滞にはまっちゃったので到着15分遅れます!》
その一言に、そういえば彼は車を持っていたのだと思い出す。
待ち合わせ場所をスターバックスにしておいた自分の判断力を褒めて、優子は山崎が来るまでの時間配分を考え始めた。
(電車に乗っている間にスマホに保存している資料の仕分け、スタバに着いたら充電しつつ研究データの改稿作業、時間があったら新しい企画書に目を通して……待って仕事のメールまだ今日確認してないな。先にそっちか)
了解、待ち合わせ場所で待ってます、だけのそっけない返信になってしまったが、すでに頭が仕事モードに切り替わっている優子は、自分のLINEの味気なさについてなど意識の外であった。
予想時刻ぴったりにGINZA SIXに到着し、スターバックスの一角でキャラメルマキアートを頼む。
カップの中身が3分の2になったところで仕事を始めるのが優子のルーティーンだ。
メールの返信をすべて終わらせて、常に持ち歩いている筆記用具とノートをバッグから引っ張り出して、スマホのデータを見ながら加筆修正したいところを一回書き出し、しばし考えてから打ち込む、あるいは削除する作業をはじめる。
不意にゆさゆさと肩を揺さぶられ、優子は作業を中断して振り向いた。
「お待たせしました!」
少し息が上がっているのは走ってきたからだろうか。
健康的に日焼けした顔を紅潮させた山崎が、深く腰を折り曲げた。
「仕事をする時間が確保出来たので、お気になさらず。それより……」
笑いを堪えようとしたが我慢出来ず、優子は小さく吹き出した。
なぜ笑われているのかわからないという顔で困惑している山崎を手招きし、優子は彼のTシャツを摘んだ。
「Tシャツ裏返し、しかもタグつきっぱなし!どれだけ慌てて来たんですか」
「え!?」
視線を下に落とすなり顔を真っ赤にした山崎に、優子は笑いながらトイレの場所を教えた。
恥ずかしそうに早足で去っていく後ろ姿を見て、意外とドジっ子なんだなと微笑ましく思う。
山崎は顔が整っているため一見するととっつきにくいが、話してみるとかなりフランクだ。
それはここ数日の会話で学習していたが、深く掘り下げるともっと面白い一面が見れそうである。