おやすみなさい、いい夢を。
「……ねぇ。日向先生」
理緒の声は、静かな病室に不意に落とされた針のようだった。
「私、正直言って……あとどのくらいなの?」
一瞬、息が止まった。
彼女の目は笑っているように見えたけれど、その奥には恐怖と覚悟が混じっていた。
心臓の奥を抉られる。
言葉にしてしまえば彼女を壊す。
言葉を飲み込めば、自分が壊れる。
喉が焼けるように痛んで、どうにか声を絞り出す。
「……まだ分からない」
それは医者らしい答えだった。
誰にでも言える、最も無難で、最も誠実から遠い言葉。
理緒は小さく瞬きをして、それから唇の端を上げた。
「……そっか。やっぱり言わないんだ」
その笑顔に、安堵と失望の両方がにじんでいた。
俺は目を逸らすしかできなかった。