おやすみなさい、いい夢を。



「……俺からも、質問いいか」
言葉を探すように一拍置いてから、低い声で続けた。

「……あの子に、どこまで正直に話してるんだ?」

理緒が瞬きをして、こちらを見返す。
「……桜に?」

「そうだ」
思わず視線が強くなる。
「こないだ、“早く退院できるといいね”なんて言ってただろう。……あの子」

理緒は小さく笑って、目を逸らした。
「……別に隠してるつもりはないけど。あのピュアっ子に重い話ばかりしても、可哀想じゃん」

「……早めに言っておいた方が、覚悟はできる」
低く、抑えた声で告げた。
「どんなに残酷でもな。後で知って絶望するよりは……少しでも早く、心の準備をしておいた方がいい」

言いながら、自分の胸の奥が痛むのを感じる。
本当にそれが正しいのか――それとも、ただ医者として冷酷に割り切ろうとしているだけなのか。
分からないまま、拳を握りしめていた。


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