おやすみなさい、いい夢を。
急転 Hinata Side.
『御崎先生、3051号室宮崎理緒ちゃん、急変です』ーー
PHS越しの声が終わるより早く、体は走りはじめていた。
僅かに上がった息を整えつつ、病室のドアを押し開ける。
その瞬間、目に飛び込んできたのは、
チアノーゼを起こして唇を紫に染めた理緒の顔だった。
「……理緒!」
ベッド脇に駆け寄り、瞬時に全身を走査する。
皮膚の色、呼吸のリズム、脈の触れ方――全部が異常。
たった数秒で、最悪の状況が理解できた。
「モニター、見せて。……SpO₂いくつだ?」
「72です!」
――まずい。
思考が一瞬で切り替わる。
頭の中で処理が走るより先に、口が動く。
「酸素流量マックスにして。
バルブ確認、こっちはバッグでサポートする!」
声が自然と張り上がる。
ナースが走る。機械音が鳴る。
空気が熱を帯びて、視界の端がにじむ。
「血圧は?」
「……まだ保ってます!」
「……よし、保て。落とすな」
心電図の波形が揺れるたび、胸の奥が軋む。
指先が冷えているのが分かる。
それでも手の動きだけは止まらない。
「中野さん、少し離れてて。邪魔になる」
彼女の足音が後ろに下がる気配。
視線の端に、涙をこらえた顔が見えた。
(……見るな。今は、見るな)
この瞬間だけは、誰よりも冷たくならなきゃいけない。
感情なんて挟んだら、取り返しがつかなくなる。
――戻せ。絶対に。