おやすみなさい、いい夢を。


呼吸バッグを押し込みながら、
わずかに聞こえる機械のビープ音を探す。
微かに、リズムが戻り始める。

「……SpO₂上がってきた。八〇、八五……九〇……」
(頼む、戻れ)

「……リズム整った! 洞調律です!」

誰かの声。
その瞬間、手の力が抜けそうになった。
けれど緩めることはできない。
もう二度と落とすわけにはいかない。

「……理緒、聞こえるか?」

答えはない。
それでも、胸の上下が確かに見えた。

(……よかった。まだ、間に合った)

一瞬だけ目を閉じ、深く息を吐いた。
恐怖も安堵も、祈りも、全部まとめて吐き出すように。 



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