おやすみなさい、いい夢を。
あの瞬間、確かに感じた鼓動が、
まだ皮膚の奥で微かに鳴っている気がする。
……駄目だ。
こんなの、全部錯覚だ。
納得しようとして、
それでも、あの時――一瞬でも理性が掻き乱された自分に、
ひどく嫌気がさした。
……いい歳して、独身だからこんな風になるのかもしれない。
もし妻がいるような身なら、
あんなの、明確にやんわりと拒絶していたはずだ。
「さすがに駄目だよ」――そう言って。
苦笑が漏れた。
現実に逃げるように、心が無理やり別の方向を探す。
……少しは真面目に、そろそろ婚活でもするか。
そう思った。
医局の誰か紹介してくれないかな。
でも変な噂立つのも面倒すぎるな……。
そう考えながら、同時にそれも、明日には忙しすぎる日常に埋もれて忘れているんだろうとも思った。
ポケットの中のPHSが短く震える。
ICUからのコールだった。
「……御崎です」
反射的に応じながら、深く息を吐いた。
感情も、余韻も、全部切り離す。
それが俺の役目だ。
そう言い聞かせて、
白衣の袖を、きつく握り直した。