おやすみなさい、いい夢を。
現実 Hinata Side.
外はもう、雨が上がっていた。
病院の屋上から見下ろす駐車場では、濡れたアスファルトが街灯を映し、鈍く光っている。
夜気はまだ湿っていて、胸の奥まで重く沈んだ冷たさが残っていた。
……背中にはまだ、彼女の温もりが残っている気がした。
「……馬鹿だな」
小さく呟いて、自嘲気味に笑う。
寒さなのか、疲労なのか、自分でもわからない。
ただ、胸の奥がどうしようもなく重かった。
――あの子は、誰かにそばにいてほしかっただけだ。
理緒の現実を知って、その苦しさを抱えきれなかった。
ただ、それだけのことだ。
俺はそこに居合わせた、偶然の相手。
医者として、たまたま頼られただけ。
そう、自分に言い聞かせる。
何度も、何度でも。
けれど――頭では分かっていても、
背中に残る温もりがどうしても消えなかった。