あの町の言葉、この町のわたし
第4話 バイト先での方言大失敗
圭介先輩との誤解が解けて数日後。菜月はバイト先のサニーテーブルでいつも通り働いていた。
「村瀬さん、3番テーブルお願い」
田村店長に言われ、菜月は明るく返事した。
「はい!」
3番テーブルには、幸せそうな新婚カップルが座っていた。二人とも指には新しい結婚指輪が輝いている。
「ご注文はお決まりですか?」
「はい、カップルセットを二つお願いします」若い夫が答えた。
「かしこまりました。カップルセット二つですね」
注文を受けながら、菜月は二人の幸せそうな様子を見ていた。手を繋ぎ合って、お互いを見つめ合っている。
「お飲み物はいかがですか?」
「コーヒーとアイスティーをお願いします」
「かしこまりました」
菜月がオーダーを確認して立ち去ろうとした時、思わず口から言葉が漏れた。
「けなるいの」
新婚の妻が振り返った。
「え?今、何とおっしゃいました?」
「あ、いえ、その…」
菜月は慌てた。つい福井弁が出てしまった。
「『けなるい』と言いましたか?」夫も少し困惑した表情。
「あの、これは福井の方言で…」
「方言?」妻が不安そうな顔になった。
「えーっと、『うらやましい』という意味やて」
「うらやましい?」
二人は顔を見合わせた。そして、妻の表情が曇った。
「どういう意味ですか?私たちの何がうらやましいんですか?」
「え?いや、そうやなくて!」
菜月は慌てて説明しようとしたが、福井弁が混じってしまう。
「お二人がすごく幸せそうやから、けなるいなあって思って…」
「幸せそうだから、けなるい?」夫が眉をひそめた。
「羨ましいということは、何か欲しいものがあるんですか?」
「違うがやって!」
菜月の声が大きくなり、早口になった。周りのお客さんが振り返る。
「そんなに怒らなくても…」妻が怯えた表情を見せた。
「怒ってないやて!」
完全に誤解が広がっている。
佳乃が慌てて駆けつけた。
「すみません、彼女が失礼しました」
「どういうことですか?」夫が不満そうに言った。
佳乃が丁寧に説明した。
「福井では『うらやましい』を『けなるい』と言うんです。彼女はお二人が幸せそうで素敵だなと思っただけで、決して悪い意味ではありません」
「そうなんですか…」
ようやく二人の表情が和らいだ。
「本当に申し訳ありませんでした」菜月が深々と頭を下げた。
「大丈夫です。誤解でしたね」
カップルは許してくれたが、菜月は落ち込んでいた。
◆バックヤードで◆
「ごめん、佳乃ちゃん。助けてもらって」
「大丈夫。でも、接客中は標準語を意識した方がいいかも」
「そうやの…」
田村店長も心配そうに声をかけてきた。
「村瀬さん、大丈夫?」
「すみません、店長。気をつけます」
「方言は悪いことじゃないけど、お客様に誤解を与えないようにね」
「はい」
気を取り直して、菜月は午後のシフトも頑張った。
「5番テーブル、お片付けお願い」
吉田さんに言われ、菜月はお客さんが帰った後のテーブルに向かった。
食器を片付けながら、ゴミ箱に捨てられた雑誌が目に入った。それは菜月が前から欲しかった料理雑誌の季刊誌だった。
「あ!」
思わず手を伸ばして雑誌を拾い上げた。
「これ私が欲しかったやつや!おとましいんやわ!」
その瞬間、店内が静まり返った。
隣のテーブルのお客さんが驚いた顔で菜月を見ている。バックヤードから田村店長が飛び出してきた。
「村瀬さん!」
菜月はハッとした。自分が何をしたか、ようやく気づいた。
お客さんのゴミを勝手に拾い上げて、「欲しかった」と大声で言ってしまった。
「あ、あの、これは…」
店長が菜月の腕を掴んだ。
「バックヤードに来なさい」
「村瀬さん、どういうつもりですか?」
田村店長の声は厳しかった。
「お客様のゴミを勝手に拾って、『欲しかった』なんて」
「すみません、でも、あれは…」
「言い訳は聞きたくありません」
他のスタッフも心配そうに見ている。吉田さんも、佳乃も。
「あの、店長」菜月が必死に説明した。
「『おとましい』っていうのは、福井の方言で『もったいない』という意味ながやて」
「もったいない?」
「はい、綺麗な雑誌が捨てられてて、もったいないなあって思って…」
店長の表情が少し和らいだ。
「そういう意味でしたか」
「はい、お客さんのものを欲しいとか、盗もうとかやなくて、捨てるのがもったいないって…」
菜月の目に涙が浮かんだ。
「でも、言い方が悪かったです。お客さんにも、みなさんにも誤解を与えてしまって」
田村店長は深くため息をついた。
「村瀬さん、君の方言は温かくて好きです。でも、接客中は誤解を招かないように気をつけてください」
「はい」
「それから、お客様が捨てたものを勝手に拾うのも、たとえもったいないと思っても、控えてください」
「はい、本当にすみませんでした」
菜月は深々と頭を下げた。
◆休憩室で◆
「大丈夫?」佳乃が心配そうに声をかけてきた。
「ごめん、みんなに迷惑かけて」
「大丈夫よ。でも、『おとましい』って言葉、初めて聞いた」
「福井では普通に使うがやけど、東京では通じんやの」
吉田さんもやってきた。
「菜月ちゃん、元気出して。誤解は解けたから」
「でも、お客さんにも変な目で見られてしもうた」
「大丈夫、店長もちゃんと説明してくれたから」
でも菜月の心は沈んだままだった。
◆シフト終了後◆
「お疲れさまでした」
スタッフルームで着替えていると、田村店長が声をかけてきた。
「菜月ちゃん、ちょっといいですか?」
「はい」
菜月は緊張した。もしかして、クビになる?
「さっきは厳しく言ってしまいましたが、君の仕事ぶりはとても良いです」
「え?」
「方言のことも、悪いことじゃない。ただ、お客様に誤解を与えないように、少し気をつけてくれれば」
「ありがとうございます」
菜月の目に涙が浮かんだ。
「それから、『おとましい』という言葉、いい言葉ですね。ものを大切にする心が伝わります」
「ほんまですか?」
「本当です。でも、次からはお客様のゴミは、勝手に拾わないように」
「はい、気をつけます」
田村店長が笑った。
「君の方言、嫌いじゃないですよ。むしろ、このお店の個性になってる」
「ありがとうございます」
◆帰り道◆
「菜月ちゃん、お疲れさま」
佳乃が一緒に駅まで歩いてくれた。
「今日は散々やったの」
「大丈夫、みんな分かってくれたから」
「でも、また方言で失敗してしもうた」
「私も最初はそうやったよ。北海道弁で色々失敗した」
「ほんまに?」
「うん。『なまら』とか『したっけ』とか、全然通じなくて困ったもん」
佳乃の話を聞いて、菜月は少し慰められた。
「でもね」佳乃が続けた。「方言は恥ずかしいもんやないよ。ただ、使う場面を考えんとあかんだけ」
「使う場面?」
「接客中は標準語を意識して、プライベートでは方言でいい。そうやって使い分ければええんよ」
「そうやの…」
「それに、菜月ちゃんの方言、お客さんの中には好きな人もいっぱいおるで」
「ほんまに?」
「うん。『あの子の話し方、温かくて好き』って言ってた人もおったよ」
菜月は少し元気になった。
◆寮に帰って◆
「ただいま」
重い足取りで帰ってきた菜月を、未来が迎えた。
「お帰り。今日はどうだった?」
菜月は今日の失敗を全部話した。新婚カップルへの「けなるい」発言、雑誌を拾った時の「おとましい」騒動。
「大変だったのね」
「もう、方言やめた方がいいんかの」
「そんなこと言わないで」未来が菜月の肩を抱いた。
「でも、迷惑ばっかりかけてしまう」
「菜月ちゃんの方言は迷惑なんかじゃないわ。それが菜月ちゃんらしさなんだから」
「未来ちゃん…」
「確かに誤解を招くこともあるけど、それを恥じる必要はないのよ」
未来の優しい言葉に、菜月は涙が溢れた。
「ありがとう、未来ちゃん」
「どういたしまして」
その時、携帯が鳴った。さくらからだった。
「もしもし、さくらちゃん?」
「菜月ちゃん、佳乃ちゃんから聞いたよ。大丈夫?」
「うん、大丈夫やて」
「『けなるい』も『おとましい』も、素敵な言葉じゃない。誤解されても、菜月ちゃんが悪いわけじゃないよ」
さくらの温かい言葉にも励まされた。
電話を切った後、もう一本電話がかかってきた。悠真からだった。
「もしもし、悠真?」
「おう、菜月。今日は大変やったんやってな」
「どうして知ってるの?」
「なんとなく、菜月の声で分かる」
悠真の優しい声に、菜月はまた涙が出そうになった。
「方言で失敗ばっかりしてしまう」
「それでええんや」
「え?」
「菜月は菜月や。無理して変わる必要なんかない」
「でも…」
「確かに、使い分けは必要かもしれん。でも、方言を捨てる必要はないやろ」
悠真の言葉は、いつも菜月の心に響く。
「ありがとう、悠真」
「元気出せよ。菜月の方言、俺は好きやで」
電話を切った後、菜月は未来を見た。
「みんなが励ましてくれる」
「だって、菜月ちゃんは愛されてるもの」
「ありがとう」
その夜、菜月は考えた。
方言を完全に捨てる必要はない。でも、使い分けは必要かもしれない。
接客中は標準語を意識して、プライベートでは自然に方言を使う。
それができれば、きっと東京でも故郷でも、自分らしくいられるはず。
「頑張るやて」
小さくつぶやいて、菜月はベッドに入った。
明日からまた、新しい一歩を踏み出そう。
方言も、自分らしさも、全部大切にしながら。
「村瀬さん、3番テーブルお願い」
田村店長に言われ、菜月は明るく返事した。
「はい!」
3番テーブルには、幸せそうな新婚カップルが座っていた。二人とも指には新しい結婚指輪が輝いている。
「ご注文はお決まりですか?」
「はい、カップルセットを二つお願いします」若い夫が答えた。
「かしこまりました。カップルセット二つですね」
注文を受けながら、菜月は二人の幸せそうな様子を見ていた。手を繋ぎ合って、お互いを見つめ合っている。
「お飲み物はいかがですか?」
「コーヒーとアイスティーをお願いします」
「かしこまりました」
菜月がオーダーを確認して立ち去ろうとした時、思わず口から言葉が漏れた。
「けなるいの」
新婚の妻が振り返った。
「え?今、何とおっしゃいました?」
「あ、いえ、その…」
菜月は慌てた。つい福井弁が出てしまった。
「『けなるい』と言いましたか?」夫も少し困惑した表情。
「あの、これは福井の方言で…」
「方言?」妻が不安そうな顔になった。
「えーっと、『うらやましい』という意味やて」
「うらやましい?」
二人は顔を見合わせた。そして、妻の表情が曇った。
「どういう意味ですか?私たちの何がうらやましいんですか?」
「え?いや、そうやなくて!」
菜月は慌てて説明しようとしたが、福井弁が混じってしまう。
「お二人がすごく幸せそうやから、けなるいなあって思って…」
「幸せそうだから、けなるい?」夫が眉をひそめた。
「羨ましいということは、何か欲しいものがあるんですか?」
「違うがやって!」
菜月の声が大きくなり、早口になった。周りのお客さんが振り返る。
「そんなに怒らなくても…」妻が怯えた表情を見せた。
「怒ってないやて!」
完全に誤解が広がっている。
佳乃が慌てて駆けつけた。
「すみません、彼女が失礼しました」
「どういうことですか?」夫が不満そうに言った。
佳乃が丁寧に説明した。
「福井では『うらやましい』を『けなるい』と言うんです。彼女はお二人が幸せそうで素敵だなと思っただけで、決して悪い意味ではありません」
「そうなんですか…」
ようやく二人の表情が和らいだ。
「本当に申し訳ありませんでした」菜月が深々と頭を下げた。
「大丈夫です。誤解でしたね」
カップルは許してくれたが、菜月は落ち込んでいた。
◆バックヤードで◆
「ごめん、佳乃ちゃん。助けてもらって」
「大丈夫。でも、接客中は標準語を意識した方がいいかも」
「そうやの…」
田村店長も心配そうに声をかけてきた。
「村瀬さん、大丈夫?」
「すみません、店長。気をつけます」
「方言は悪いことじゃないけど、お客様に誤解を与えないようにね」
「はい」
気を取り直して、菜月は午後のシフトも頑張った。
「5番テーブル、お片付けお願い」
吉田さんに言われ、菜月はお客さんが帰った後のテーブルに向かった。
食器を片付けながら、ゴミ箱に捨てられた雑誌が目に入った。それは菜月が前から欲しかった料理雑誌の季刊誌だった。
「あ!」
思わず手を伸ばして雑誌を拾い上げた。
「これ私が欲しかったやつや!おとましいんやわ!」
その瞬間、店内が静まり返った。
隣のテーブルのお客さんが驚いた顔で菜月を見ている。バックヤードから田村店長が飛び出してきた。
「村瀬さん!」
菜月はハッとした。自分が何をしたか、ようやく気づいた。
お客さんのゴミを勝手に拾い上げて、「欲しかった」と大声で言ってしまった。
「あ、あの、これは…」
店長が菜月の腕を掴んだ。
「バックヤードに来なさい」
「村瀬さん、どういうつもりですか?」
田村店長の声は厳しかった。
「お客様のゴミを勝手に拾って、『欲しかった』なんて」
「すみません、でも、あれは…」
「言い訳は聞きたくありません」
他のスタッフも心配そうに見ている。吉田さんも、佳乃も。
「あの、店長」菜月が必死に説明した。
「『おとましい』っていうのは、福井の方言で『もったいない』という意味ながやて」
「もったいない?」
「はい、綺麗な雑誌が捨てられてて、もったいないなあって思って…」
店長の表情が少し和らいだ。
「そういう意味でしたか」
「はい、お客さんのものを欲しいとか、盗もうとかやなくて、捨てるのがもったいないって…」
菜月の目に涙が浮かんだ。
「でも、言い方が悪かったです。お客さんにも、みなさんにも誤解を与えてしまって」
田村店長は深くため息をついた。
「村瀬さん、君の方言は温かくて好きです。でも、接客中は誤解を招かないように気をつけてください」
「はい」
「それから、お客様が捨てたものを勝手に拾うのも、たとえもったいないと思っても、控えてください」
「はい、本当にすみませんでした」
菜月は深々と頭を下げた。
◆休憩室で◆
「大丈夫?」佳乃が心配そうに声をかけてきた。
「ごめん、みんなに迷惑かけて」
「大丈夫よ。でも、『おとましい』って言葉、初めて聞いた」
「福井では普通に使うがやけど、東京では通じんやの」
吉田さんもやってきた。
「菜月ちゃん、元気出して。誤解は解けたから」
「でも、お客さんにも変な目で見られてしもうた」
「大丈夫、店長もちゃんと説明してくれたから」
でも菜月の心は沈んだままだった。
◆シフト終了後◆
「お疲れさまでした」
スタッフルームで着替えていると、田村店長が声をかけてきた。
「菜月ちゃん、ちょっといいですか?」
「はい」
菜月は緊張した。もしかして、クビになる?
「さっきは厳しく言ってしまいましたが、君の仕事ぶりはとても良いです」
「え?」
「方言のことも、悪いことじゃない。ただ、お客様に誤解を与えないように、少し気をつけてくれれば」
「ありがとうございます」
菜月の目に涙が浮かんだ。
「それから、『おとましい』という言葉、いい言葉ですね。ものを大切にする心が伝わります」
「ほんまですか?」
「本当です。でも、次からはお客様のゴミは、勝手に拾わないように」
「はい、気をつけます」
田村店長が笑った。
「君の方言、嫌いじゃないですよ。むしろ、このお店の個性になってる」
「ありがとうございます」
◆帰り道◆
「菜月ちゃん、お疲れさま」
佳乃が一緒に駅まで歩いてくれた。
「今日は散々やったの」
「大丈夫、みんな分かってくれたから」
「でも、また方言で失敗してしもうた」
「私も最初はそうやったよ。北海道弁で色々失敗した」
「ほんまに?」
「うん。『なまら』とか『したっけ』とか、全然通じなくて困ったもん」
佳乃の話を聞いて、菜月は少し慰められた。
「でもね」佳乃が続けた。「方言は恥ずかしいもんやないよ。ただ、使う場面を考えんとあかんだけ」
「使う場面?」
「接客中は標準語を意識して、プライベートでは方言でいい。そうやって使い分ければええんよ」
「そうやの…」
「それに、菜月ちゃんの方言、お客さんの中には好きな人もいっぱいおるで」
「ほんまに?」
「うん。『あの子の話し方、温かくて好き』って言ってた人もおったよ」
菜月は少し元気になった。
◆寮に帰って◆
「ただいま」
重い足取りで帰ってきた菜月を、未来が迎えた。
「お帰り。今日はどうだった?」
菜月は今日の失敗を全部話した。新婚カップルへの「けなるい」発言、雑誌を拾った時の「おとましい」騒動。
「大変だったのね」
「もう、方言やめた方がいいんかの」
「そんなこと言わないで」未来が菜月の肩を抱いた。
「でも、迷惑ばっかりかけてしまう」
「菜月ちゃんの方言は迷惑なんかじゃないわ。それが菜月ちゃんらしさなんだから」
「未来ちゃん…」
「確かに誤解を招くこともあるけど、それを恥じる必要はないのよ」
未来の優しい言葉に、菜月は涙が溢れた。
「ありがとう、未来ちゃん」
「どういたしまして」
その時、携帯が鳴った。さくらからだった。
「もしもし、さくらちゃん?」
「菜月ちゃん、佳乃ちゃんから聞いたよ。大丈夫?」
「うん、大丈夫やて」
「『けなるい』も『おとましい』も、素敵な言葉じゃない。誤解されても、菜月ちゃんが悪いわけじゃないよ」
さくらの温かい言葉にも励まされた。
電話を切った後、もう一本電話がかかってきた。悠真からだった。
「もしもし、悠真?」
「おう、菜月。今日は大変やったんやってな」
「どうして知ってるの?」
「なんとなく、菜月の声で分かる」
悠真の優しい声に、菜月はまた涙が出そうになった。
「方言で失敗ばっかりしてしまう」
「それでええんや」
「え?」
「菜月は菜月や。無理して変わる必要なんかない」
「でも…」
「確かに、使い分けは必要かもしれん。でも、方言を捨てる必要はないやろ」
悠真の言葉は、いつも菜月の心に響く。
「ありがとう、悠真」
「元気出せよ。菜月の方言、俺は好きやで」
電話を切った後、菜月は未来を見た。
「みんなが励ましてくれる」
「だって、菜月ちゃんは愛されてるもの」
「ありがとう」
その夜、菜月は考えた。
方言を完全に捨てる必要はない。でも、使い分けは必要かもしれない。
接客中は標準語を意識して、プライベートでは自然に方言を使う。
それができれば、きっと東京でも故郷でも、自分らしくいられるはず。
「頑張るやて」
小さくつぶやいて、菜月はベッドに入った。
明日からまた、新しい一歩を踏み出そう。
方言も、自分らしさも、全部大切にしながら。