執拗に愛されて、愛して
 私の身体を優しく抱き寄せて、頭を撫でてくれていた。


「別れねぇよ。俺は遠距離なんかじゃ。」

「…え?」

「夏帆からその言葉が聞きたかっただけ。正直、仕事理解してもらえないなら別れるしかないって言われるかなって思ってたけど、別れたくないって言葉で安心したわ。」


 そう言いながら笑っている雅に腹が立って手を握りしめて胸元をドンッと叩くと「いたっ」と言いながらもまだ笑っている。この男、私の気持ちを試していたのだ。本当に腹が立つのに、雅も別れないと言ってくれた安心感で力が抜ける。


「あの時は社会人なり立てで金に余裕があったわけじゃないし、働き始めで気持ち的にも余裕なかったけど、今はあの時と状況違うし、簡単に会いに行けるじゃん。」

「…やっぱり嫌い。別れる。あんたみたいな男。私がどれだけ傷付いたと思って…。」

「あの日の仕返しだよ。5年前別れるって言って乗り越えてくれなかったことへの仕返し。もうこれですっきりしたし、俺は何年でも待ってるよ。だから、仕事頑張れ。」


 そう言って私の顔を持ち上げると、優しく笑いかけてくる。本当にこういう所がずるい。最低な事されたのに、いつも許してしまう。


「会いに来てくんなかったら殴りに行く。」

「お前に会えんならそれでも良いなあ。」


 なんて幸せそうに笑っている。今度は本当に遠距離でも大丈夫なのかも、と少しだけ自信が持てた。



─────────今のこの時間が続くのも後もう少し。
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