執拗に愛されて、愛して
「というかあんた仕事中でしょ、戻りなさいよ。」

『寂しくなってんじゃねぇかなって思って。そろそろ俺の声恋しかっただろ。』

「この間も電話したじゃない。バカね。」


 雅の言葉に笑っていると電話の奥から雅の名前を呼ぶ女性客の声が聞こえた。今は遠距離中の彼女が独占していい時間ではない。


「バカじゃないの、私も明日仕事だしもうすぐ寝るわよ。あんたも飲みすぎないようにね。」

『指輪、ちゃんと着けてんの?』


 そして時々入るこの確認。今は馴染んだ右手の薬指を眺める。


「…着けてるわよ。」

『そ、それならいいわ。おやすみ。』


 そう言って電話を切られてツーツーと電話が切断された、虚しい音だけが耳に残る。

 声を聞いて話せばいつでもそこに居る様な気がしてくるのに、電話が切れると急に現実に引き戻され凄く寂しくなる。

 あのバーで雅と過ごす時間も、家で話していて笑いが絶えないあの時間も、今はどれも手に出来ないものだ。


「…1人暮らしってこんなに静かだったっけ。」


 テレビを点けても到底2人が居た時の賑やかさにはならなくて、深夜のバラエティー番組の中では笑いが起こっていても、それを見て笑う気にもならなかった。
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