執拗に愛されて、愛して
 定時を迎えた時、ぎりぎりではあったけれど業務を終わらせられた。周りは週末で飲みに行くなんて話をしていれば、週明けの締め切りの業務に迫られ、まだ作業をしている人も居た。

 正直、誰かに残業させて帰るのはものすごく心苦しい。


「ごめんね、今日は先に帰らせてもらってもいいかな?」


 恐る恐るそう声を掛けると「お疲れ様です!」と快く見送ってくれた。

 そんな社員達の姿に安心して「ありがとう、お疲れ様。」と声を掛けて、そのまま荷物を持って会社を出た。

 頭の中は既に何と奴に文句を言ってやろうかとそんな事ばかりで、まっすぐ家に向かっていた。

 マンションの前に着くと入口で男女が話し込んでいて、何となく入りずらい。エレベーターを諦めて外の非常階段から上るかどうか、悩んでいるとふと男の方に見覚えがあった。


(いやいや、文句言いたすぎて幻覚でも見たのね。)


 一度は気のせいだと思おうとしたけれど、私があの綺麗な顔を見間違えるはずがない。ハッとしてもう一度男の方を見ると紛れもなく雅で、笑顔で女性に手を振っている。


「な、何であんたここに居るの!?」

「あ、やっときた。おせぇよ。」

「おせぇよって…!」


 驚きを隠せないでいると女性に「ね、嘘じゃないでしょ。だからごめんね。」と何かを断っていた。女性に何故か私が睨まれたけれど、今はそんな事どうだって良かった。
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