執拗に愛されて、愛して
「今日は定時上がりだったんだ?珍しい。」


 壁に寄り掛かっていたのをやめてこちらに近付くと「驚いた?」と笑っている。

 驚いたどころの話ではない。会えると思っていなかったから、今も夢なんじゃないかと思ってしまっている。


「ま、待って…。仕事は?それに、私達お昼喧嘩して…。」

「仕事は休んできた。直接会って喧嘩して負け顔拝んでやろうと思って。」


 そう言いながら笑っていて、いつもなら言い返せるのに今は何も言い返せない。それよりも会いたかったという気持ちが先に出てきて、外なのに思い切り雅に抱き着く。

 少し驚いた様子だったけど、受け止めるなり思い切り抱き締めてくれてようやく少し安心した。


「…負け顔拝むって、何言ってんだか。負けるのはあんただし、それを口実に会いたかっただけなんじゃないの。」


 会いたかったとは自分は素直に言えないくせに、人には挑発するような言葉を向ける。どこまでも素直になれない面倒な人間だと自分でも思う。


「そう言ってんじゃん。」

「…言ってない。分かりづら過ぎる。」

「そうだっけ?」


 本当にこの男が話す言葉は適当すぎて呆れる。それなのに、嫌じゃない。


「会いたかったよ。」


 その時の言い方と表情がすごく優しくてときめいた。声を聞いているだけでも好きだとは思うけど、実際に会って声を聞くのとじゃ全然訳が違う。

 どんなに腹が立っても、好きだと思わせられるのはこの男しかいない。
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