執拗に愛されて、愛して
 本社に戻ってきてそれなりに経つので、支社の方で和やかだった雰囲気から少し慌ただしくピリついた雰囲気にもまた慣れてきていた。こちらでは所々話す声は聞こえるものの、向こうみたいに全体で話す賑やかさはない。

 堤くんとか、元気かな。と時々思い出すけど、何故か堤くんを思い出すと雅を思い出してゾッとした。あの男、堤くんに特大嫉妬ぶちかまして遠距離中急に仕事休んで会いに来る行動力があって、その嫉妬の仕方も可愛らしいものではない。

 ブンッと首を横に振って自分のデスクでパソコンのキーボードを叩くと「黒崎さん」と呼ばれて、しばらく固まった。未だに朝比奈さんと呼ばれる事も多く、中々この黒崎さんと呼ばれることにたまに反応できない。

 人によって呼び方が違うのだけど、それは私がどちらでもいいですよと言ったからだ。


「…はい、どうしました?」

「この書類チェックをお願いしたいです。もし問題なければそのまま部長に提出お願いできますか?」

「はい、承知しました。」


 どうして私はどっちでもいいですよ、なんて言ったのか。

 黒崎と呼ばれるのが嬉しい気持ちと、朝比奈の名前を使わなくなるのが寂しかったのかもしれない。私は結構我儘な女で、こういうことがよくある。
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