執拗に愛されて、愛して
 朝になって目が覚めると、雅が私の身体を腕の中に抱き締めて眠っていた。

 昨夜の私は本当にどうかしていたと思う。好きだと言われたわけでも付き合うと言われたわけでもない。気になっていた人との恋を自分で始まる前に壊してしまった。

 そっと腕から抜け出して、ベッド下に落ちている衣類を拾って服を着る。


「ん…、夏帆?」


 シャツのボタンを閉める私を後ろから抱きしめてくる。朝から暖かい体温と、ただ抱かれただけの私にそんな優しく触れられるだけで泣きたくなってくる。

 こんな優しさもこの人には意味が無くて、きっと一夜限りの遊び相手に過ぎないのだろう、と思えば思う程、辛くて苦しい。


「私、帰りますね。もうこれっきり来たりしないので安心してください。」


 雅が後ろから顔を覗き込んでくるのを見ると、面倒な女になりたくなくて、必死に笑顔を取り繕う。最後くらい物分かりの良い女で居て、後輩としての立ち位置だけでも守りたかったから。

 そのまま顔を手で固定して優しくキスをしてくる。恋人にするみたいな甘くて優しいキスに泣きそうになる。私の気持ちも知らないで、本当にひどい人だと思った。

 キスしてから唇を離すと、鼻先が付きそうな程の至近距離で見つめ合う。


「…何で。これっきりとか言うなよ。」

「だって、もう次無いですよね…?」

「物分かり良くしようとしなくていいよ。これで最後にする気無いから。」

「え…?」


 そう言って優しく髪を掬って髪にキスする。そんな行為も今は目に入らない。これで最後にする気無いという言葉の意味をずっと考えてしまって、雅の顔をずっと見ていた。


「付き合って、夏帆。」


 そう言って微笑んでくる雅に囚われてこんな最低な形で私達の恋は始まる。今でも本当最低最悪な恋の始まり方だと思った。
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