隠れ許嫁は最終バスで求婚される

最終バスで、告白したら ──Side Mone




 とっくに大人なのだから門限もないはずなのに、幼い頃に「早く帰らないとお化けに食べられちゃうぞ」と亡き祖父にさんざん刷り込まれてしまったせいか、夜遅くに主不在の実家に帰るのは怖いものがあった。けれど金曜日の夕方、同棲していた彼氏がほかの女をアパートに連れ込んでしっぽりいたしている場面を目撃した身としてはあそこに戻るくらいなら実家であたまを冷やした方がましだと身体が勝手に動いていた。

 愚痴を聞いてくれる友人たちの多くは就職で上京してしまったし、地元の友人も新しく家庭を持ったりして二十五歳のあたしを受け入れてくれる余裕はなさそうだったから、半ば自棄になっていた。ひとりで地元の映画館に入り浸り、人目をはばかることなく泣きじゃくり、駅前の牛丼屋で特盛牛丼を食べたら男のことなどどうでもよくなった。

 時刻は午後八時半。駅前はまだ栄えていたけどひとりでオールするような場所はこの中途半端な地方都市には存在しない。着の身着のまま財布とスマホだけという心もとない状況だったが、財布につけておいた実家の鍵に呼ばれた気がしたあたしは駅前ロータリーのバス乗り場の時刻表を調べていた。あと五分もすれば車庫行きの最終バスが来る。ふとスマホを見れば男からの謝罪だか言い訳だかよくわからないメッセージが入っていた、けど既読無視。明日にでも荷物を取りに行ってそれでサヨナラだ。同棲はじめて三ヶ月、なんとも短い春でした。
< 1 / 53 >

この作品をシェア

pagetop