隠れ許嫁は最終バスで求婚される


「ねえ、このバス折り返さないの?」
「バカ言うなよ。終点。終バス。車庫だぞ? 朝までこのまま。だからお客さんは降りてください」
「やだ、降りたら野宿しなくちゃいけないじゃない。それにこのへん熊出没注意って……」

 あたふたするあたしをお兄ちゃんはどこか面白そうに見つめている。

「そうだねえ、先月隣町で熊が釣り人襲ったって事件があったのまだ捕まってないし、特に夜は危険だからな」
「だったらなおさらバスから降りられないじゃない! どうしよう」
「俺はこのあとバスをとめて営業所で仮眠取るつもりだけど」
「だったら」

 連れて行ってよと目で訴えれば、お兄ちゃんは本気で困った顔をしている。

「かわいいモネちゃんを男だらけの営業所に連れ込むわけにはいかないよ。だったらこのバスで一緒に一晩過ごす方がぜんぜんマシかな」
「……え」
「俺は何も知らないふりをして車庫(ここ)にバスをとめて、翌朝同じバスで運転を開始する。降ろし忘れた乗客がいるなんてバレたら大目玉だけど……バレなきゃ問題ない、だろ?」
「ええええ!?」
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