お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~

──新キャラクターの発表から約一週間が経った金曜日。

役員や幹部の秋の人事異動に伴いWeb会議が行われることになり、多摩支店でも社員に召集がかかった。

会場となる会議室には椅子と長テーブルがスクール形式のレイアウトで並んでいる。

Webとは言え会議なんだし、部署毎に固まって座るのだろうと思っていたのだけど、既に席に着いている人達を見れば、部署や役職もてんでばらばら。


「どうなってんの?全支店の参加する会議なのに、部長がこんな適当に座らせるなんて珍しくない?って言うかあり得ないよね」

そう言う葵に同感で、たまたま近くにいた爽維くんにコソッと聞いてみた。

「藤間主任、今日は部長はいらっしゃらないんですか?」

すると爽維くんもコソッと教えてくれた。

「部長は急な出張で不在なんだ。だからアレ…」

と爽維くんが目だけを動かした先を見ると、曽我課長が「こんな画面上なんざ、どこに座ったってわからねえから、どこでもいいから早く座れ」と後ろの方の席にふんぞり返って座ったまま、会議室に来た人達に面倒くさそうに言っていた。
特に若手には「…おら、前の席ががら空きだぞ、お前ら行って顔を売ってこい」と命令して。


「あー、なるほど」
「僕はマズイとは思うんだけどね…」
「ですよね……ほら、他の支店はみんなきちっと役職者らしき方々が前列に座ってますもんね」

部屋の前面に設置された大型スクリーンに、本社の会議室と全国の支店の映像が映し出されており、それを見ると、いずれの支店も〝ズラリ!〞といった並び方をしている。

「あーあ、知ーらない」と言う葵と一緒に、私達は爽維くんのすぐ後ろの席に座ることにした。

「それにしても珍しいよね、人事異動発表でWeb会議なんて」
まだガヤガヤとうるさい室内で、小声で葵に話し掛ける。

「あーね。何か特別な事でも起こるのかしらねぇ、んふふ」

「…何で〝んふふ〞なのよ」

「いやぁ、どんな会議になるのかなぁって思ってさ」

「…普通にWeb会議でしょ?人事異動の。…あ、本社の方が動き始めたね。始まりそう」

会議の開始時間が近付き、画面の向こうもそれっぽい動きになってきたから、私達も正面を向いて始まるのを待った。

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