お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
香奏さんによる就任の挨拶が始まると、後方からヒソヒソ声が聞こえてきた。

「ほら、この人よ、桜賀くんのお見合いの相手」
「ほんとだ、副社長と同じ『ヨシザワ』だもんね」

その声は保科さん達だと思うが、香奏さんがお見合い相手だと信じきっているせいか、年増っぽいだの、キツい顔だの、桜賀くんには似合わないだのと目に余るもので、それは挨拶が終わるまでずっと続いていた様だった。


香奏さんの挨拶が終わると、また副社長が話し始めた。

「それでは次に、私の息子であり、10月より副社長補佐として就任しております 桜賀 響 を紹介させて頂きます」


その言葉を聞いたルナさん達から、驚きの声が上がった。

「え!どういうこと!? 桜賀くんが副社長の息子ぉ!?」
「じゃあ、お見合いの相手って姉!?」
「まさかそんな訳ないでしょ!」
「じゃあお見合いの話って何だったの!?」

そんな会話から、またもや三人が騒ぎ始めた。

すると、桜賀に関しては元同僚だったこともあり他の社員達も気になるらしく。
「副社長の息子だったとは」
「本社行きはエリートコースってやつ?」
「何で副社長と名字が違うんだ?」
…などと口々に話し出した。

それらを耳にしながらスクリーンを見ていると、桜賀と香奏さんが口元を隠しながら何かを話していて、それが終わると香奏さんがまた席に着いた。

「すみません、弟の紹介と挨拶の前に一点だけお話しさせて下さい。私は副社長の吉澤の娘ですが、本社の支部管轄本部長の吉沢 衛(よしざわ まもる)と結婚しておりますので、私の名字の『吉沢』は、母の名字の『吉澤』ではございません」


「えっ?結婚してる?」
「吉沢本部長の奥さん!?」

ルナさん達が驚いていると、また香奏さんが話し出した。


「また、私の旧姓は『桜賀』ですし、仕事で旧姓である〝吉澤〞を使う母も、戸籍上は『桜賀』です。そして、これから挨拶する 桜賀 響 は私の実の弟になります」


「そうだったのね…」
「じゃあお見合いの相手って誰よ…」
「ていうか嘘だったんじゃない?」
「まさか、本社の江田島くんがそんな嘘をつくはずは…」

とまた3人がざわつき始めたところに、タイミング良く香奏さんが口を開いた。

「唐突にこの様なお話しをすみません。実は今まで、私が副社長の吉澤の娘であることと、本社に在籍する吉沢が夫であることで混乱を招いた事がありまして、今後、社長と全国の支部、支店にお邪魔することを踏まえて、この度皆様にお話しさせて頂いた次第でございます。どうぞご承知おきの程、よろしくお願いいたします」


香奏さんが最後にそう語ると、ルナさん達から声が上がることはなくなった。

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