お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
「…なんかさ、こういう時にひょこっと桜賀が現れてきてなかった?『お前ら、何してんだ?』って」
「…ふふ、確かに。いつもそんな感じだったよね」

なんて笑ってたら…


「お前たち、何してんだ?」


昨日まで聞いていた愛しい人の声が、頭上から聞こえてきた。

「っ響 !?」
「ぶっ…アハハハッ!ちょっと、ナツコの旦那ってばタイミング良すぎ!」
「ちょっ!葵っ」

「ん?旦那?」

「あぁぁ!何でもないよ、何でもない!」

まさか、この週末の話をしたすぐそばから現れるなんて!
慌ててその場を繕おうとするも、葵がファイティングポーズをとりながら言う。

「桜賀、ナツコを裏切る様なマネはするんじゃないわよ! ナツコを泣かせたら、このあたしが承知しないからね!」

「あぁ奈都子、金曜日のこと、楢橋に話したんだ?」

やっぱりバレてしもた!

「…うん…ごめん、勝手に…」

ばつが悪く感じ、親友とはいえ早々に喋ってしまったことを素直に謝ったのだけど、響は優しく笑って、私の頭を撫でてくれた。

「何で謝るんだよ。ってか隠さずに話してくれんのが嬉しいし。それに楢橋は姉妹みたいなもんなんだろ?」
「うん…ありがと」

「てな訳で楢橋、俺が見てない時に奈都子に悪い虫が付きそうになったら駆除頼むな」

「モチロン!そんなの朝飯前よ!」

「ハハ、それは頼もしいな。奈都子も何か困った事があればすぐに言えよ?」

「うん、ありがとう」

「ところで、副社長補佐の桜賀が何でここにいるのよ」

「今日は支店長に話があって。奈都子も後で呼ぶな、異動の話もあるからさ」

「そっか、ナツコは異動だもんね…ナツコにとっては良かったけど、いよいよナツコともここでお別れかぁ……やっぱ寂しいな…」

「じゃあさ、やる気があればだけど、楢橋も希望出すか?窓口担当。一般募集に先駆けて、近々支店に募集案内が行くから見てみろよ」

「え!それホント!?」

「あぁ。支店の営業社員は試験はなくて、営業成績や就業態度を確認したらあとは面談て感じだから、希望を出せば楢橋なら行けんじゃね」

「そっか、それならあたしも希望出そっかな」
「え、葵は多摩支店を離れてもいいの?爽維くんと離れちゃうよ?」
「それは全然。…実は近々、一緒に住むことになってさ。ヘヘッ」
「同棲するの?それは結婚に向けて?」
「まぁ…ね、へへへ」
「わ!おめでとう!」

「ん?…奈都子、それは楢橋の結婚相手が多摩支店にいるってこと?」

あっ、響を置いてきぼりにしちゃった。

「葵、響に話してもいい?」
「もちろん」

「響、あのね、葵のお相手は藤間主任なの、藤間爽維くん」
「藤間主任!?」
「うん。でね、実は藤間主任…爽維くんは私のお兄ちゃんの同級生で、私達三人は地元の昔馴染みなの。けど、葵と爽維くんはお付き合いしてることを会社の人達には内緒にしてたから、私も知り合いなのは黙ってたんだ」

「へー……そうだったのか、それは全く気付かなかったな」

「じゃあナツコ、あたしも窓口担当希望、出してみるわ」
「やった!これからも一緒に働けたら嬉しいな。…あ、じゃあそろそろ戻ろっか」
腕時計を見て言うと、葵も同じ様に腕時計を見た。
「あらほんと、もうこんな時間」

「奈都子、俺は先に行くな」
「うん」

返事をすると、私の頭を優しく撫でて「後で会おうな」と笑顔を見せてから支店へと向かって行った。


「歩くの早いねー、旦那」
その響の後ろ姿を見ていた葵が、落としたおにぎりの袋を拾いながら言う。

「うん。足が長いからなのかな。でも一緒に歩く時は私に合わせてくれてるよ」

「だろうねぇ、さっきの桜賀を見ればわかるわ。ってゆーか、あんなにデレる奴だったとはね~、んふふ」

「え?デレてた?さっきは普通だったよね?前と変わらないっていうか」

そう言うと「アッハ!」と葵が楽しそうに笑った。

「いやー、すっごいデレてたよ~。でもまぁ、ナツコを大事にしてくれそうで安心したわ。うん、うん」

感心したように頷く葵とお互いの恋バナをしながら、公園の歩道に敷かれたレンガ道をオフィスへと歩き始めた。

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