お守りに溺愛を込めて~初恋は可愛い命の恩人~
打ち合わせの会場、というか結婚式の会場である『ラピスニューグランドホテル高輪』を出ると、すぐに目についたファミレスに三人で入った。
「葵、そんなに飲んだらお腹冷えるよ」
ドリンクバーの野菜ジュースを何杯も飲む楢橋に、爽維さんが心配そうに言う。
「だって喉渇いてたからさー。…っはー、おいしい!…じゃ、次の1杯を持ってくるわ」
「おいおい…」
「大丈夫、今度はホットのにするから」
「あ、そう…」
何度目かのドリンクバーのおかわりに向かう楢橋を優しく見ながら爽維さんが言う。
「葵はさ、奈都子ちゃんのことを本当に姉妹の様に思ってるんだよね」
「えぇ、それは本人達からも聞いてますし、二人を見てるとすごく感じますよ」
「僕もね、奈都子ちゃんは親友の妹だから小さい頃から知ってるし、僕にとっても妹みたいな存在でね」
「はい」
「…葵、そろそろ話そうよ、桜賀くんも忙しいんだから」
ホット用のカップを持ってそろりそろりと戻ってきた楢橋に、爽維さんが声をかけた。
「そうだった、ごめん!…でさ、桜賀、結婚式なんだけど!」
向かいの席に座ったとたん、楢橋が、ずい!と体を乗り出して、思い出したかの様に俺を睨んで言う。
「結婚式?楢橋達の?」
「違うわよ、あんた達のに決まってんでしょーが」
「俺と奈都子の結婚式?…それがどうした?」
「あんた、やりたくないんだって?」
「は?…いや、やりたくないも何も、結婚式の話とかまだしてないけど、全然」
「あんたさ、前に言ったんでしょ、友達が少ないから披露宴は無理だって」
「えっ?……あー…前にそんな話をした覚えはあるけど……でもそれ、かなり前の話で付き合う前だったし、その時は単純にそう思ってたからな」
「ナツコはそれを覚えてるの。だから披露宴はしないって言ってんのよ。…それ、桜賀はどう考えてんの?」
「ちょっと待った。…一体何の話?何で俺達の結婚式の話を奈都子抜きで話すんだ?」
「ほら葵、順を追って話さないと」
「そっか、それもそうね。やーだ、ナツコのこととなると熱くなっちゃってダメだわー」
爽維さんの言葉に楢橋がパチン!と手のひらで額を叩き、それからカフェラテを一口飲むと、また俺を見た。
「あのね、ナツコは昔から、友人知人親戚をたくさん呼んで、賑やかな結婚式をするのが夢だったの。それもね、これ見よがしのゴージャスなヤツじゃなくて、高砂のない和気あいあいとしたパーティー形式で、来てくれた皆との歓談がメインのね」
「うん…それで?」
「でも、あんたが『披露宴は無理』って言っちゃったから、ナツコは〝賑やかな披露宴〞の夢を諦めてんの!」
「そうなのか……でも俺は何がなんでも嫌って訳じゃないし、それが奈都子の夢なら反対なんてしないよ。むしろ奈都子の好きな様にしてやりたいし」
「…あのさ、あんたの本音を知ってるナツコが、そんな披露宴をすると思う?」
「え?」
「あのナツコだよ?今後あんたが『たくさんの人を呼んで賑やかな披露宴をしよう』って言ったところで、変に思うか、あんたが無理してると思うに決まってるでしょ」
「………」
確かに…奈都子ならそう思うかもな…
「だからね、これからあんたがいくら『賑やかな披露宴をやりたい』と言ったところで、『無理だ』と言ったあれが本心だと知ってるナツコには効かないワケ」
「…じゃあ…奈都子は本当にやりたかった披露宴をしないつもりなのか…?俺のせいで夢を諦める、ってこと…?」
「そうね。あぁ、結婚式はするつもり、とは言ってたわよ。結婚式自体は二人きりでもできることだしね」
…そんな…
「…なぁ、俺はどうしたらいいんだ?奈都子のために…俺は何ができる?」
「桜賀、本当に披露宴をする気、ある?」
「あぁ、もちろん」
「嫌々とか渋々じゃなくて?」
「あぁ、それは一切ない。むしろ今は奈都子と一緒に披露宴で幸せな時間を過ごしたいと思ってる。ただ、やっぱ俺が呼べる友人てのはマジで少ないけど」
「それは考えなくていいわ。…そう、桜賀がそこまで言ってくれるのなら、あたし達から提案があるの」
「…提案?」
そう聞き返した俺に、「ねっ?」と爽維さんと頷き合った楢橋が、さっきよりも少しだけ声を抑えて話し出した。
「あたし達、考えたんだけど──」